「俺、醜いな」
「え?」

朝、突然ビニール袋を下げたホリーが家にやって来た。
いつも家に来るときは何かしら連絡してくれるから驚いた。
何かある、ホリーからビニール袋を受け取りながら、直感的にそう思った。
リビングに来るやいなや転がっていたクッションを抱き抱えたホリーはソファーに体育座り、それきり無言になった。
それを見ながら僕は2つ、コップを取るとホリーの持ってきたコーラを注いだ。
コーラの注がれたコップを両手に持ってホリーの元へ向かい、立ち止まった。
そうして、冒頭に戻る。


「俺は、醜い」
「…どうして?」

コップをホリーの前に置いて隣に座ると、ありがと、と言ってホリーはクッションを抱いたまま身を乗り出してコップを手に取った。

「ホリー、どうしたの?」

コーラを少し口に含んだホリーは、コップをテーブルに置くとまた押し黙った。
答えが返ってくるまで僕は待つ。
ホリーが相談するときはいつもこうだから。
そして、話したい人が話したい時に聞くのが一番だと思うから。
それからコップの中の氷がほんの少し溶けてきた頃。

「俺、」
「うん?」

ホリーの方に顔を向けて話を聞く態勢をとる。
それを確認したホリーはゆっくりと口を開いた。

「…俺、きっとお前を守ることで、いや、あいつから遠ざけることで、安心してるんだ」

ホリーの顔がクッションに沈む。
その肩は怯えているように小さく震えていた。

「ただの、わがままなんだ。だって、」

俺が嬉しいと、あいつは傷つく。
俺が傷つくと、あいつは嬉しい。
ならばどうすればいいのだろう。
俺はあいつが嬉しいのも傷つくのも嫌なんだ、見たくないんだ。

「…こんなの、お前に言うのは筋違いなんだろうけど」

音が聞こえる。
聞き慣れた心地好い波の音。

「…それでホリーの気が済むなら、僕は何だって聞くよ」

頭をよぎるのは、いつも不安げに、でもどこか嬉しそうに話しかけてくるニースの姿。
端から見れば、そんな風に見えるんだろう。
でも、ニースにも、勿論僕にも、全くそんな感情はない。
つまりは、そういうことなんだ。

「似た者同士だね、」
「は?」

僕はソファーから立ち上がると海の見える窓辺に立った。
窓を開けると爽やかな風が入り込んできた。
その風を全身で受け止め、僕はホリーを振り返った。

「Holly,become obedient.」

それを聞いたホリーは、僕を驚いたように凝視した後、俯いた。
だけど次に顔を上げた時には、そうだな、と言って困ったように笑っていた。
少しだけ明るくなった空気の中、カランと氷がぶつかり合った音が、響いた。




∴ 素直になりなよ
(君ならきっと、大丈夫)



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