幼い頃、ありきたりでけれど守り続けることは難しい小さな約束をした。
お互いの小指を絡め、指切りげんまん、なんて高らかに歌って。
その時、彼は確かに不思議そうな顔をしていた。
きっと初めて聞く歌だったのだろう。
守らなかったら針を千本飲まされる、そう教えた時の彼の反応は今でも鮮明に覚えている。

「ずっと一緒にいようね」

思い返せば、昔から彼は泣き虫だった。
人一倍感受性が豊かで、それでいて正義感も強くて真面目すぎるために、ついつい一人で抱え込んでしまう。
それが彼、俺の幼馴染み、神童拓人という人間なのだ。

「どうしたんだ?いきなり」
「いや、…神童は覚えてるか?」

何を、と問う神童の顔を見遣り、先程まで思い起こしていた幼少の記憶を語って聞かせた。
俺が語り終えると、神童は瞼を閉じて小さく頷いた。
言葉にはしていないのに、その所作だけで気持ちが伝わる。
二人で過ごした長い月日は、確実に信頼感を積み上げていた。

「針を飲まされると聞いて、泣いたんだったな」
「ああ、あまりにも泣き止まなくて正直焦ったよ」

すまない、と笑う神童を見つめながら、俺も笑みをこぼす。
その話題を引き金に、俺達は思い出話に花を咲かせた。
けれどどのシーンを思い出してみても、必ず神童が泣いていた。
変わらないな、と呟けば、神童は苦笑した。

「流す涙の意味は、今と昔では全然違うのにな」

その言葉を聞いて、俺はついと目を細めた。
変わっていないのも確かで、変わっているのも確か。
それは神童をずっと見てきた俺だから断言できる。
泣き虫だった小さな神童は、精神的に確実に成長していた。
いつも泣いていた頃とは違う、いつも慰めていた頃とは違う。
どうしてだろう、嬉しい筈なのに取り残されたような気さえ起きてくるのは。

「霧野、」

神童の顔が近づいてきて、彼の額が俺の額にぶつかった。
こんなに近くで神童を見るのはいつぶりだろうか。
神童の顔は引き締まり、目には強い光が宿っている。
その目に映る俺の顔は涙に濡れてぐしゃぐしゃになっていた。

「ずっと一緒にいるんだろ?」

離れていったりしないから、そう言って笑った神童の顔は、やっぱり昔と何一つ変わっていなかった。
弱々しく頷けば、神童の顔が更に距離を縮めてきた。
軽く触れるような優しいキスは、少しだけ塩辛くて、どこまでも甘かった。




∴ 約束のキスをもう一度
(変わりはしない約束を胸に)

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企画提出/「大丈夫だよ。」様へ



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