僕、太陽に嫌われてるんだ。
へらり、と笑った彼の作り上げられた笑顔はあまりにも切なかった。




「サッカーが出来れば、それで良かったんだよ」

膝の上に載せられたボールを愛おしむように撫でながら、か細い声でそう言った。
その白い肌の手を、指を、ただ見つめて頷いた。
ゆっくりと動く太陽くんの手は、同じ動きばかりを繰り返すだけで変化はない。
ただ時々、動かす向きを変えるだけだ。

「…何で、嫌われてるなんて思うの」
「…」

衣擦れの音が響いて、太陽くんの手の動きも止まった。
それから目を離し、目の前の太陽くんへ視線を移す。
俯く太陽くんの横顔はオレンジ色の髪に覆われて、口元だけが見え隠れしていた。
まずかっただろうかなんて思ったけれど、自分の口から謝罪の言葉は一切紡がれずに呼吸ばかりを繰り返す。
開けた窓から入り込む風が煽るカーテンの音が響く病室は、ひたすら静かだった。

「…だってさ、狩屋」
「ん?」

ようやく出された声はどこか弱々しかった。
相変わらず表情は見えないままだったけれど、今まで作り上げてきた時間から、太陽くんがどんな顔をしているかなんて安易に想像できた。
膝の上の自分の拳は、少しだけ震えていた。

「僕は日中に活動出来るし、別に陽に当たってどうこうなるわけじゃない」
「うん」
「起きていられるし話せるし、散歩もすれば冬花さんから逃げもする」
「うん」
「呼吸も、出来る」
「…うん」

生きてるんだよ、そう言ってまた太陽くんはボールを撫でた。
今度はまるで、小さな子をあやすように。
病室は明るい。
頭上の蛍光灯を点けずとも、差し込んでくる陽射しがあるから。
人工の光にはない、暖かさを添えて。

「でも、それでも自由じゃない」

それは、悲しそうな声だった。
狩屋と同じ時間を一緒に過ごせる訳じゃない、好きな時に思い切りサッカーが出来る訳じゃない。
どれも太陽がある時間に出来る事だ。
そう続けて太陽くんはボールを強く掴んだ。
ボールの側面に爪を立てて、跡を残していく。
それをぼんやりと眺めながら、ああ、と心の中で声を上げた。
そんなことをしたら太陽くんの爪が傷ついてしまう。

「…太陽はさ」

ボールの側面を抉るほどに強く掴んでいた太陽くんの手をそれから離し、そうして自分の手を重ねる。
どこかひんやりとしつつも暖かい、生きている人間の手。
その手を握りしめれば、太陽くんは小さく身じろいだ。

「太陽は、いつだってあるじゃん。見えないだけで」
「…でも、」
「嫌われてるって思うなら、いいじゃんそれで」
「え」
「その分、好きになればいい。そうすれば、いつか太陽も好きになってくれる…気がする」

何言ってんだろ俺、と思いつつも、ただ真っすぐに太陽くんを見つめる。
瞬きを繰り返す太陽くんの青い目を見ながら、空みたいだなんて思って。
そうしていたらいつの間にか、太陽くんの腕の中にいた。
太陽くんの膝の上にあったボールは床に落ちて跳ねる。
リズミカルな音が足元から聞こえてきていた。

「…ありがとう、狩屋」
「…どういたしまして?」

思わず苦笑しながらも、太陽くんの背中を優しく叩く。
ぎゅう、と力を増す腕は正直苦しかったけれど、今はいいかな、なんて思って。

「ね、狩屋」
「なに、太陽くん」
「好き」
「…」
「大好きだよ狩屋」
「…はいはい」

暖かい陽射しと、暖かい体温。
俺からすればそのどちらもが、ただ優しくて心地好くて、どうしようもなく愛しかった。




∴ 太陽に愛された僕は
(あったかいね、そう言って笑うんだ)



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