あたし達は、歌うために生まれてきた機械。
その存在意義は“歌う”事にある。
歌えなくなったら、それはもうあたし達の“終わり”に等しい。
「歌えなくなるなんて、想像できないよ」
隣りで寝転がりながらゲームをするレンに視線を向けた。
「でも、俺達は結局、人間の代わりでしかないんだよな」
レンはゲーム画面から目を外さずに答えると少し間を開けてから、よっしゃクリア。と小さくガッツポーズをした。
「確かにそうなんだけど…、…もしそうなったら、あたし達どうなるのかな」
ピタリ、レンの動きが止まった。
「…消えちゃうの、かな」
レンが静かに起き上がりあたしを省みた。
「…普通は、ね」
「でも、そうなったら」
少し俯いてレンは、そうだね、と呟いた。
やっぱりそうなるんだ。
もうマスターにもミク姉にも、メイコ姉、カイト兄、ルカ姉、クーちゃん、ぐみちゃん、がっくん、みんなに会えなくなっちゃう。
もう二度とみんなの顔を見る事も声を聞く事も、何もかもできなくなっちゃうんだ。
「…やだよ」
「…それはみんな一緒だろ」
俯くレンを見つめながら、あたしは唇を噛んだ。
じゃあ、と口を開くとレンがゆっくりと視線だけを上げた。
「レンにも会えなくなるの?」
レンの綺麗な碧い瞳が大きく見開かれた。
もうレンの、あたしに似てるようで違う顔も、どこか力強くて優しい声も、暖かくて落ち着く体温も、ふわりと香る太陽のような匂いも、あたしを見る時のあの愛しそうな目も。
全部、全部、全部。
「この気持ちも、レンの事を好きだって大切だって想う気持ちも消えちゃうの?」
レンの見開かれた瞳が大きく揺れた。
その瞳に映るあたしは、自分で見ても痛々しいくらい悲痛な顔をしてしまっていた。
ふいに、温かい体温に包まれた。
「俺が、絶対に忘れない」
すぐ近くで聞こえた声は震えていた。
「リンが忘れたって、絶対、絶対に俺が忘れない」
ゆっくりとレンの背中に腕を回して、抱き返した。
服越しに伝わる体温、聞こえる鼓動、掠める香り、繰り返す呼吸音、それらは全部あたし達が生きている印。
今、ここにいるという、確かに存在しているのだという証。
∴ 約束しましょう
(あたしだって絶対に忘れない)
(君に抱くこの気持ち)