幼い頃から夢見てた。
いつか白馬の王子様が私を迎えに来てくれるって。
今となってはそんなこと、現実ではありえないってわかってる。
実際白馬に乗ってくるなんて迷惑きわまりない。
というよりもまず無理だろう。
でもそうは思っていてもやっぱり夢見ちゃう訳で。
そんな風に白馬の王子様を夢見てた私にも、めでたく王子様がやってきた。
「あ、ミク少し髪切った?」
そう。彼が容姿端麗、成績優秀、おまけに優しくて紳士的な私の彼氏、初音ミクオ。
まさに理想の王子様。
「う、うん!スゴいねクオくん!ほんとに少ししか切ってないのに」
「そりゃあ気付くでしょー。好きな女の子の変化なんだから」
思考が止まった。
目の前の彼の言葉を整理する。
その言葉を確認した途端、みるみる熱くなっていくのがわかった。
「ミク、真っ赤な林檎みたい」
くすくすと笑う彼にさらに鼓動は加速した。
うわあ、そう思いながら下を向くと、よしよしと頭をなでられた。
ああ、幸せすぎる。
「あ、リンちゃん」
彼の呟きに顔を上げれば、本当だ。
肩くらいの金髪を揺らしながら、鏡音リンちゃんが歩いていた。
そんなリンちゃんにクオくんは近付いていって、
「おはようリンちゃん。今日も一段と可愛いね…」
ああ、また始まった。
私の王子様には(私から見た)欠点がある。
延々と口説いてからじゃあ、またね。と言ってリンちゃんと別れたクオくん。
しかしこれで終わる彼ではない。
視界に入ったルカ先生を認めて、クオくんは歩き出した。
「ああルカ先生、おはようございます。今日も綺麗ですね。そんなお世辞じゃありませんよ…」
そう、彼の欠点は無類の女好き。
しかも褒めるのが無駄に上手で、あまり誰も気付かないようなところまで気付く。
女にとっては嬉しい限り。
私にとっては腹立たしい限り。
「はあ…」
思わずこぼれるため息。
こんなの毎日のことなのに。
このクオくんの一面を知って理解した上で一緒にいるんだからもう少し寛大になりたい、と思う。
そんなこと!って流してあげられるくらい。
でもやっぱり辛いものはどうしようもなく辛い訳で。
「…クオくんの浮気者」
「誰が浮気者だって?」
「っわあ!」
いつの間に帰ってきてたのだろうか、クオくんが後ろから抱きついてきた。
「ククク、クオくん…!」
「酷いなあ。こんなにミクのことが好きなのに」
近いよクオくん…!
みるみる熱くなっていく身体とは反対に気持ちはどうしてもマイナスなほうに向かっていく。
どうすればいいんだろう。
私だってクオくんのことは大好きだし、一番だよ。
でも、やっぱり自信なくしちゃう。
「…」
暗くなってしまった私を見てクオくんは私が何を考えているか察したのだろう。
私の頬に軽くキスをした。
「―っ!?」
勢いよく振り返るとそこにはにっこりと笑ったクオくんの顔。
私を見つめてからゆっくりと彼は口を開いた。
「大好きだよ、ミク」
∴ 私の彼は浮気性
(それでもやっぱり)
(好きなものは好きなんです)