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 突然ですが私、みょうじなまえは、付き合い始めて三日目にして彼氏に避けられています。辛いです。

 私とカゲは付き合う前から友達として仲が良かった。ボーダー隊員同士であるということ、ボーダーの中でも同じポジション(アタッカー)に属しているということ、それに加えて学校でも同じクラスであるということ。それらが重なれば必然的に接点は増えるわけで、周りの女の子達に比べて仲が良くなるのは当然と言えば当然だと言えるだろう。
 カゲは、ぶっきらぼうというか、粗野というか、普通の人に比べたら少し刺々しい性格だけれど、その発言自体は結構普通だったりする。口調が荒っぽいから勘違いされがちだけれど、割と正論を言っていたりするのだ。
 もしカゲに“感情受信体質”なんてサイドエフェクトがなければ、今ほどツンツンしていなかったのではないだろうか、と思ったこともある。厄介なサイドエフェクトのせいでカゲは損した人生を送っているのではないか、と。
 しかし、今はそうは思わない。厄介なサイドエフェクトを持っていようがいまいが、カゲはカゲだ。そりゃあ最初は、自分の感情が筒抜けになっているなんて聞かされてどういう風に接したら良いのか分からなかったし、負の感情を向けたらめちゃくちゃ睨まれるんだろうなと思ってビクビクしていたこともある。
 けれど、彼が見かけよりずっと優しいことに気付いてからはサイドエフェクトのことなんて気にならなくなったし(向こうは気にしているかもしれないけれど)、私はサイドエフェクトのことも全部引っ括めて、今のカゲに惹かれた。それはまごうことなき事実だ。
 ただ、私がどれだけカゲのことを好きだとしても、カゲは私をそういう対象として見ていないだろう。そう思っていた。だからこの気持ちは伝えるべきではないとも思っていた。けれど、日に日にカゲへの感情は大きくなる一方だった。
 そして私は、意を決して告白した。当たって砕けろ。駄目で元々。そんな気持ちで挑んだ告白劇だっだのだから「言うのが遅ぇ」と返された時は、飛び上がるほど嬉しかった。カゲも同じ気持ちだったんだ、って。そう思ったら心臓が身体から飛び出してしまいそうなほど胸がいっぱいになった。

 それなのに、蓋を開けてみればこれである。たった三日で避けられるとは何事か。この三日の間に、私が何かしたというのだろうか。何度も振り返ってみたけれど、何度頭を悩ませたところで思い当たる節はなかった。
 学校でもボーダー本部でも、その行き帰りの道でも、普通に話しただけ。付き合い始めたからといって、手を繋いだりキスをしたり……なんてことは一切していない(したいけど)。
 サイドエフェクトのことを知っているから、極力いつも通りの気持ちで接していた(つもりだ)し、私に落ち度はないように思える。じゃあ一体どうして? 何が原因でこんなことに?
 考えたって分からないので、私は直接本人を捕まえて問い質すことにした。もし付き合い始めて三日で別れることになったとしても、理由を教えてくれないと納得できない。
 ゾエさんや村上くんに協力してもらい影浦隊の作戦室にカゲを呼び出すことに成功した私は、部屋に入るなりギョッとして出て行こうとするカゲの背中に飛び付いた。そう簡単に逃してやるもんか。

「なんで私のこと避けてるのか教えてくれるまで離れないんだからね!」
「バカなこと言ってねぇで離れろ!」
「……私のこと、嫌いになっちゃったの?」

 腕にしがみついたまましゅんとして尋ねてみれば、それまで私を引き剥がそうと必死だったカゲの動きが止まった。そして次に聞こえたのは、ガリガリと頭を掻き毟る音と、チッという舌打ち。

「耐えられねーんだよ」
「それは、私と付き合うのが無理ってこと?」
「違う」
「じゃあ何に耐えられないの?」
「……ふわふわ刺してくんな」
「ふわふわ?」

 かなり言いにくそうに吐き出された言葉は、カゲに似つかわしくない擬音語を含んでいた。ふわふわ。ふわふわだって。カゲが、ふわふわって言った。……ちょっと可愛いんですけど。
 論点がズレていることは分かっているのだけれど、どうしてもその擬音語が気になってしまった私は、笑いが堪え切れなかった。それゆえに、ふふふっと漏れてしまった笑い声。案の定、カゲはあからさまに不機嫌そうな顔をして、私を睨み付けている。

「こっちは真剣に話してんだよ!」
「ごめん! だってカゲが、ふわふわ、とか可愛いこと言うから……」
「てめーの感情が浮かれまくってるせいでこんなことになってんだろ!」
「え? 私?」
「付き合い始めてからやたらふわふわ刺してきやがって……擽ったくてやってらんねーんだよこっちは!」

 イラついているはずなのに、私を責めるにしては少し怒気が足りないのではないだろうか、と思っていたのだけれど、なるほど、どうやらカゲは怒っているというより戸惑っているらしかった。
 私はこれでも必死に浮かれ気分をひた隠しにしてカゲに接してきたつもりだったのだけれど、どうやらちっとも隠し切れていなかったらしい。つまりカゲは、私の好き好きビームに耐えられなくなって逃げていたということか。
 え、何それちょー可愛いじゃん。そういうところ好き。私は「好き」という感情を、惜しげもなくカゲに向かって飛ばしまくった。カゲの眉間の皺が深くなったような気がするけれど、小さいことは気にしない。

「だから! 刺すな!」
「そんなの無理だよ。もう慣れるしかないって。どうやっても隠せないし」
「うぜー……」
「ってことで、仲直り記念に今日は一緒に帰ろ。カゲんち行くからお好み焼き作って!」
「勝手に決めてんじゃねーよ」

 そう言いながらも腕にしがみついたままの私を振り払わないところが、カゲの可愛いところであり優しいところだ。そんなことを思っていたら、また「刺すな」と言われた。今日、あと何回そのセリフを言われるだろう。まあ何回言われたってどうすることもできないんだけど。
 さて、避けられ続けて傷付いた分、お腹いっぱいになるまでお好み焼き奢ってもらおーっと! 私の浮かれ気分を、文字通り、しっかり肌で感じたらしいカゲに例のセリフを言われるまで、あと二秒。

凶器はハートでできている