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さんたさんありがとう
「ごめんね勝己くん……こんな大事な日に……」
「だからなんでなまえが謝んだよ」
「だって明日はクリスマスだから色々準備しなきゃいけないでしょ? それなのにこんな時に限って風邪ひいて寝込んじゃうなんて……」
「わぁーったから黙って寝ろ」

 クリスマス・イブの夜。子どもたちはいつも通りの時間に布団に入り眠りに落ちた。翌朝には枕元にサンタクロースからのプレゼントが届いているはずだと、わくわくした表情で。
 私たちは、親としてサンタクロースの役目を果たさなければならない。あらかじめリサーチしておいたプレゼントはもう買ってあるけれど、肝心のラッピング作業は手付かず。前日の夜、子どもたちが寝た後にやればいいと思っていたからだ。
 しかしここにきて、私が風邪をひき熱を出して寝込んでしまうというアクシデントに見舞われた。朝から寒気がするなとは思っていたのだけれど、気のせいだと自分に言い聞かせて過ごしていたら、遂に夜になって熱が出てしまったのだ。我ながら、なんてタイミングが悪い女なのだろうかと頭を抱えたくなる。
 本来私がやるはずだったクリスマスプレゼントのラッピングや明日のクリスマスディナーのための仕込みは、全て彼がやってくれた。私より上手かもしれないラッピングをほどこして、リビングに置いてある煌びやかで大きなクリスマスツリーのところにセッティングすれば、プレゼントの準備は完了だ。
 クリスマスディナーのチキンは美味しいと評判のレシピをもとに作った特製のタレに漬けてくれているし、ケーキも注文済み。本当は明日私が取りに行く予定だったのだけれど、彼が取りに行ってくれると言う。しかも保育園の送り迎えもやると言い出したものだから、私はギョッとした。

「今日寝たら明日には熱下がってると思うから、そこまでしてくれなくても大丈夫だよ」
「あ? 死にそうな顔してどの口が言っとんだ」
「ね、寝れば大丈夫だもん……」
「朝からあいつらの相手したらまた熱上がるだろーが。夜やるんだろ、クリスマスパーティー」
「うん……」

 子どもたち以上に私が明日を楽しみにしていることを、彼はよく知っている。彼と子どもたちと四人そろってのクリスマスパーティー。彼は忙しいはずなのに、わざわざ休みを取ってくれた。だから、こんなことになったのが心底残念でならない。
 彼は私が熱を出したことに対して「休みでちょうど良かったわ」と言っていたけれど、子どもたちを保育園にあずけて昼間は二人きりでクリスマスランチにでも行こうかと話をしていただけに、私の落胆ぶりは半端じゃなかった。考えれば考えるほど、自分の免疫力のなさとタイミングの悪さに腹が立つ。
 私ほどではないにしろ、彼もそこそこ楽しみにしてくれていたはずだ。二人きりで出かけられる機会なんてそうそうないし「好きなとこ連れてってやる」と機嫌よさそうに言ってくれたのは記憶に新しい。

「ごめんね」
「オイ。だから、」
「久し振りに二人でクリスマスデート行きたかったなあ」
「……そんなの、来年でも再来年でもいくらでも行けんだろ」
「そうだけど」
「オラ、くだらねェこと言ってねえでさっさと寝ろや」
「はぁい」

 仕事から帰ってきて私の顔を見るなり全てを察したらしい彼は、子どもたちを寝かしつけようとしている私に風邪薬を押し付けて、代わりに寝室に行ってくれた。思っていた以上に身体は限界だったのか、薬を飲んでから二時間ほどリビングのソファで死んだように寝ていた私は、今現在どうにかこうにか微熱程度まで落ち着いている。
 しかし、油断は禁物。今までの経験上、私は一度熱が出ると翌日まで引き摺るパターンが多いのだ。彼はそのこともきちんと把握しているから、私に寝ろと命じたのだろう。まったく、私より私のことをわかっている人だ。
 私が寝ている二時間の間に全ての準備を終わらせてくれていた彼に「ありがとう」と何度目かのお礼を言って、子どもたちが寝ている寝室の隣の客間に彼が敷いてくれた布団に潜り込む。これも、子どもたちと一緒だと気になってゆっくり眠れないだろう、という彼の気遣いだ。気が利くにもほどがある。
 正直、隣に彼がいてくれないのは寂しいし落ち着かないけれど、これ以上我儘を言ったらバチが当たってしまう。せめて明日の朝は元気に「おはよう!」と言えるように体調を整えよう。私は静かに目を閉じた。

◇ ◇ ◇


 翌朝はすっきりと目覚めることができた。びっくりするぐらい熟睡だった。こんなに寝たのはいつぶりだろうか。微かにドタバタという足音と笑い声が聞こえるから、子どもたちは既に起きているらしい。
 やばい。目覚ましをセットしていなかったから普通に寝坊してしまった。いくらなんでも彼に頼りすぎではないかと、私は急いでリビングに向かう。

「おはよう」
「おかあさんおはよー!」
「おはよー!」
「もう起きたんか」
「寝すぎなぐらいだよ」
「そりゃ良かったな」
「おかあさん! サンタさんからプレゼントもらった!」
「ぷれぜんともらったの!」

 きゃっきゃと大はしゃぎしながら私のところにやってきた子どもたちの手には、昨日彼が用意してくれたプレゼントがあった。どうやらサンタクロースの役目は無事に成功したらしい。
 子どもたちに「良かったねぇ」と声をかけながら朝ご飯の準備をしようと台所に向かおうとする私に、彼がすかさず声をかけてきた。「ツリーんとこ見てみろ」と。
 ツリーのところ? 子どもたちのプレゼントは開封済みだから、もうツリーのところには何もないはずでは? と思いながら言われた通りにそちらへ視線をやれば、そこにはなぜかもう一つ小さな袋が置いてあるではないか。
 何これ。こんなの聞いてない。思わず彼の顔を見る。目が合った瞬間に口角を上げる彼は、やけに楽しそうだ。

「おとうさんが、これはおかあさんのプレゼントだって言ってたよ!」
「そっか。サンタさん、お母さんにもプレゼントくれたのかなあ?」
「かっか、ぷれぜんとよかったねぇ〜」

 子どもたちの前で彼にお礼を言うわけにもいかず、私は大人しく袋を手に取る。子どもたちに中身を見せろと催促されるまま袋を開ければ、入っていたのは私がいつか欲しいとぼやいていたクリスマス限定コフレのセットだった。
 いや、待って。これを勝己くんが買ったの? 確かこのコフレは店頭での限定販売だったはずだからネット購入はできないはず。ということはお店にわざわざ行ってくれたってことだよね? 女性もののショップに彼が現れたというだけでちょっとしたニュースになりそうなものだけれど、そんなニュースを見た記憶はない。

「勝己くん、これどうやって……」
「俺は知らねェぞ」
「え、ちょっと、ねぇ、」
「オラ、朝飯食え」

 戸惑う私をよそにいつの間にか朝ご飯の準備までしてくれていた彼は、子どもたちにさっさと食べさせ始めている。その後も保育園に送るまでの全ての準備を流れるように終わらせてくれた彼には、頭が上がらない。

「ねぇねぇ勝己くん」
「熱なさそうだな」
「プレゼント、」
「その調子なら昼飯食いに行けるか?」
「え、う、うん」
「ならさっさと準備しろや」
「ちょっと! プレゼント! いつの間に用意してくれたの?」
「……さァな」

 それから何度尋ねても、彼は私の質問に答えてくれなかった。でもまあ、いっか。念願の二人きりでのランチデートに行くことができて、夜には家族そろってのクリスマスパーティーをすることができて、こんなに幸せで大丈夫かなって思うぐらい幸せな一日を過ごせたのだから、もうなんでもいいや。

「勝己くんは何がほしいですか」

 クリスマスが終わるまであと二時間となった夜の十時。子どもたちはぐっすり夢の中。リビングでくつろぐ彼に尋ねれば、待ってましたとばかりに笑みを返された。

「わかってんだろ」
「お決まりのやつはもうあきたかなと思って」
「あきねェわ」
「じゃあ、」
「体調万全じゃねェとまた熱出んぞ」

 彼に近付いてそれっぽい雰囲気になりかけたところで、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて額にキスをひとつ落とした彼は言う。「今日はこれで勘弁しといてやる」と。
 困ったなあ。これじゃあ風邪が完全に治ったら勝己くんにサービスしまくらないといけないじゃないか。……なんて、満更でもなかったりして。