猛禽の目は*高月



みんなが真っ直ぐに見ている景色を、オレはいつも俯瞰で見ている。
見下ろすように、角度を変えて。

この目のおかげでオレはスタメンで、日向や木吉や火神や黒子や…みんなとコートに立ててる。それは解ってる。
けれどたまには真っ直ぐに、ただただ前だけを見てみたい。
自分に自信がない、体格にも恵まれず、鷲の目以外に何も取り柄がないオレには、それができない。
無意識に鷲の目を使い出来る限りを見渡して…縋れるものを探す。

縋りつける存在を探す。


「それは違うっすよ、伊月さん」
「…気休めならいらないよ、高尾」
「違います。俺も鷹の目があるから解る。探してるのは縋るモンじゃねぇ…止まり木っすよ」

とまりぎ。止まり木…?

「とまり、ぎ」
「そう、止まり木っす。ちょっとだけ休む為の、また羽ばたく為の。それは絶対必要なモンで、悪いモンじゃない。むしろなくちゃ生きていけない」

なくちゃ生きていけない。
それは、縋るっていう意味じゃないんだろうか。


わからない。
いつもなら、俯瞰して理解しつくせる景色が滲む。

「…泣いていいっすよ……辛かったんですよね」

誰にも言えなくて。
そう言って、高尾はオレの頭を抱き込んで肩にうずめた。
もう片方の腕がゆっくり、少しだけ惑ってから腰にまわされる。ぎゅっと抱きしめられた。


「……ふ…、くっ…」
「大丈夫、俺は同類っすからね。俺には知られても平気」
「…たぁ、か…ぉ」

ずるい。本当にずるい。
ただの気休めなり、下心なり、同情なり。何かあれば突き放してこの腕から逃げるのに。
何も、ない。
ただただ同類だからと、優しく温かく。
欲がない。熱くない。もちろん冷たくない。気持ちいい。

泣くのに、ちょうどいい。

こんなの泣くしかないじゃんか。こんな機会次はいつあるかわからないから、余計に。
他校の後輩で、しかも俺よりもっと見えてしまってる奴の腕の中なのに。


「、…たかっお、は、」
「…ん?」
「高尾は、ぅっ…苦し、く…な、ぃっ…ひくっ…の、か?」

馬鹿な質問だ。苦しいに決まってる。
オレですらこうなのに、高尾はもっと…。


「俺はな〜、ま、止まり木、見つけたんで」

「……?」

「伊月さんも、見つかるといいっすね、止まり木。…でも、それまでは」


まだ涙は止まらないけど、それ以上に気になって。
ゆるりと顔を上げた俺の鷲の目を、高尾の鷹の目が捕らえた。


「たまにですけど、俺が止まり木、なります」


仮のですけどね、と優しく温かく高尾が笑うから。
たぶん、高尾に、高尾の『止まり木』である人物を裏切ることをしているとぼんやりと理解したのに。


「気にしなくて大丈夫。俺が、伊月さん放っとけねぇだけだから」


オレはやっぱり、仮の止まり木である筈の高尾に…きっと、縋ってしまうと、これははっきりと感じた。




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