夕日に秘める*日→月
「ずっと、もっと触れたかった」
卒業式も終え、自由登校になった初日の夕暮れ。
「え…いや、オレ達結構触れてるよ?こないだまで、さんざん円陣組んだりしてたじゃん」
本当にこないだ…数日前まで。
2年の冬、歓喜を得たオレ達も3年になった。
本来なら、3年はWCが終われば即引退。
けれどオレ達誠凛メンバーは、校長先生に頼みこんでまで、卒業式の前日まで後輩の指導と称して部活を続けてた。
好きだから。
この誠凛バスケ部が大好きだから。
幸い、WC優勝などの功績があったのと、ベンチ入りメンバーの殆どがスポーツ推薦での進学が決まっていたため、許可が下りた。
更に嬉しいことに、黒子や火神を筆頭に、2年になった後輩達には感謝された。
今や誠凛はバスケ強豪校と謳われ、新入部員の人数が今までの比ではなかったのだ。
だからオレ達3年は、初めは建て前だった筈の、後輩の指導に力を注いだ。
誠凛がこれからも長く『強豪』と、そして叶うならばいつか『古豪』と呼ばれるように願って。
そんな、
きっと人生で一番で一回きりの、長かったようで短い、青春ってやつがもう終わったのかな…と感じていた夕暮れ。
日向がぽろりと、角砂糖をこぼすように。
オレの隣で呟いた。
「そうじゃねぇ…そうじゃねぇんだ……伊月」
「何…?」
「先に言っとく、ごめん。でも、これで全部…思い出にするから」
―――――っ
「……え…」
一瞬。本当に一瞬だけ、唇に少しかさついた、けれど柔らかい感触があった。
「…じゃ伊月、またな」
ちょうど、日向の家とオレの家への別れ道。
何がなんだかわからず立ち尽くすオレをおいて、日向は振り向くことなく歩き去る。
その背中は、夕暮れに彩られた映画かドラマの1コマかのようで。
ただの日常の別れではないと、停止した思考でも理解した。
「……ひゅう、が…」
こころ、が
キリリ微かに、甘く鋭く痛んだ気がした。
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