緩やかに波立つ欲*複数×光前提,蔵光


巻き込んだのは俺
でも巻き込まれた原因は、向こうにそういう欲があるから


あの頃から、俺らの心臓は止まったまま






チ、チ、チ、チ、
秒針が進む音が煩い。
これだからアナログ時計は嫌いや。
時代はデジタルやろ、と思うけど、あのひとは脈拍測るのにどーとか言う健康オタク。
医者かっつーの。謙也さんやあるまいし。
あー…そういや来週は謙也さんに飲み誘われとった。
いいとこ連れてって貰お。
謙也さんも俺には甘いから、ちょっとねだればイチコロっちゅー話や(うわ、完全に謙也さん語が移っとる…)
そや、その前に今週末は千里さんに誘われとるんやった。
海鮮料理とか言いよったけど、どこやろ?
千里さんは、表通りよりずーーっと奥に入ったちっちゃいけど美味しいとことか、マニアックな料理屋さんに詳しい。
連れてって貰える身としてはおもろいけど、どうせフラフラしよって見付けたやろなー、思うとあのひとホンマに大丈夫なんやろか。

俺ら、もう大人やのに。


カチャリ、


「ただいま、ひかる〜?」
「…おかえんなさい、蔵さん」




この部屋の主、蔵さん登場。
蔵さんはもいっかい、ただいまゆーて、ちゅって俺の額にキスした。
毎日のいってきますとただいまのちゅー、34回目。そろそろ発ち時かなぁ。


「光、昼はちゃんと食べた?」
「はい。サンドイッチ、おいしかったです」
「ありがと。夕飯はロールキャベツやから、いいこで待っててな」

ワイシャツの上からエプロンを付ける蔵さんから脱いだ上着を受け取り、はぁいと返事する。
上着をハンガーに掛けて寝室に持っていったら、とりあえず俺の仕事は終わり。
あとはぼーっと蔵さんの背中を見ながら、ぽつぽつ他愛ない話をして夕飯の完成を待つ。

蔵さんは毎日、シャキシャキ働いて、テキパキ家事して、ねっとりと俺を抱く。
俺は毎日、だらだら過ごして、ただただ男に抱かれる。


高校を卒業して専門に行ったけど、何となく…何となく、家にも学校にも居場所がない気がして。
捜さないで下さい。なんて定例句を残して、俺は19で家出した。


始めは知らんオヤジと寝てた。
何人か目で金持ちに当たって、愛人として一年近く飼われた。
20は過ぎて21になるちょい前、蔵さんと謙也さんとばったり再開して。
俺は家出してから初めて、心で泣いた。

いちばん綺麗でがむしゃらだったあの頃のメンバーに飼われだしたのは、その夜からだった。





「……ねーえ、蔵さん」
「どしたん?光」

「夕飯、あとでいいっすわ。それより… ねぇ、いいでしょ? 蔵之介、さん」


「アカンこやね…光は」



蔵さんの料理はめっちゃ美味いんやけど、そろそろ師範の所にでも行こ。
行ったらまずお説教!なのがキツイけど、あのストイックで無欲な師範の目に男の欲を映させるのは、たまらない快感や。
あの感じ、美味しい料理より完璧なセックスより、久しぶりに味わいたくなった。




「ッ、ああ…もっと…ぉ」




こんな生活、あとどのくらい保てるんやろーか
この道筋が途切れて、続かんなったら


そんときが、俺の死に時






end



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