小さな大好き*亜壇
「亜久津せんぱい!」
名前を呼ぶ。
追いかける。
話しかける。
ときどき振り返ってくれる。
たまーに足を止めてくれる。
だからときどき目が合って。
数歩の間だけは隣に並べる。
大好きですって笑ったら。
小さく小さく、唇が動く。
「…太一、」
「はいですっ」
「ほら」
亜久津せんぱいのごつごつして男らしい指が、僕の額に触れた。
ずれたヘアバンドを直してくれる、せんぱい。
おまけに一回、頭も撫でてくれた。
「へへっ、亜久津せんぱいは優しいです」
「バーカ、お前にだけだ」
「!…ありがとうございますですっ」
ね、亜久津せんぱい。
ぎゅってしてもいいですか?
近づいた距離が嬉しくて、せんぱいの中指を握りしめたら。
違うだろ、って僕の全部を抱きしめてくれたです。
ぎゅう、おっきなせんぱいの体に全部包まれて。
僕はしあわせな気持ちです。
亜久津せんぱいの腕、胸板、髪、匂い、感触。
ぜんぶぜんぶ大好きで。
「せんぱい、大好きですっ」
「…知ってる」
僕はこの気持ちの全部を伝えたくて、ぎゅって力を込めた。
―――亜久津せんぱい、ずっとこのままでいたいです。
―――…俺は先に進みたいけどな。
―――え?
―――ククッ、何でもねぇよ。
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