笑顔が一番!
…頭脳線、長っ……
執務室の隊長机の向かいに椅子をドンと置いて、目の前で指を組んでいる手を見やる。きゅっと右手の薬指を掴んで自分の方にひっぱって、そのままじいっと手を見つめた。
「(頭脳線なっが…)」
骨張ってて、細くて、きれいな流れ手。刀を握る手。血と汗を拭う手。隊士たちを引っ張って行く手。
ぎゅううっと両手でその手を握ると、それよりも少しだけ強い力で握り返された。
「、あっ…」
パッと顔を上げれば、右手は私に遊ばせたまま頬杖をついて、じっと私を見つめる隊長と目が合った。「ん?」と、何ともなしに隊長が返事をする。
手に向き合っているところをずっと見られていたのかと思うと、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「俺の手、楽しい?」
「う、あ、えっと」
「もっと?」
今までの甘くゆったりとした空気に、少しの艶が重ねられる。
「…っ……」
それまでされるがままだった隊長の手がつうっと私の手のひらを撫でて、指を絡められる。繊細な指使いで辿られたところが熱くなる。
大好きな手。
手をつなぐ時も、頭を撫でられる時も、抱きしめられる時も、手のひらから指先まですべてが私を包み込むようで。
「すき、隊長の手…」
艶を増した空気と指使いに誘われるようにそう呟けば、絡めたままの手をぐっと引かれて、乗り上げた机の上で唇と唇が合わさった。
「…んう…っ」
「俺もここ、好き」
何度か甘く噛んで最後にぺろっと舐められた唇。それを満足気に見つめる隊長。ぼっと顔が熱くなって、ショートした思考回路におかしな考えが浮かんだ。
“私が隊長の手について考えていたようなことを、隊長もキスしている間、考えていたんだろうか”
い、いやいやいや……
いやいやいやいや…!
なにを考えてるんだ私、バカ、バカバカ!恥ずかしすぎる!そんな私の葛藤なんてすべてお見通しだと言いたげな隊長の視線が唇に集まるのを、嫌というほど感じる。
「(…居たたまれなさすぎる…)」
完全に雰囲気に飲まれた私は軽く涙目になりながら隊長の手から離れようとする、よりも早く、隊長の方からするりと体が離れた。
「へ?」
突然のことに顔を上げれば、いかにも真面目そうに眉を寄せて、涼しげに筆をとっている隊長が見えた。
“どうかしたんですか?”
そう口を開こうとした瞬間、聴こえたノック音が2回。
…あ、今仕事中だった。
(なに仕事中に発情してんだよ)
(はつっ……!?)
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通常運営テキスト風味、ただし原料の9割は糖分。
今までアップした応援小説三話の中によく出てくる背中や手や唇は、触れていて安心する、ほっとできる部位だと思います。
物理的な意味でも精神的な意味でも、人のぬくもりは大切です。