愛でる−苺ミルク編−




変態じみていると言われればそれまでだと、日番谷は躊躇うことなく笑った。この光景を見れば、恐らく誰だってそう言いたくなると、そういう理解も常識もちゃんと持ち合わせている。第一に、日番谷自身、常識的な人間だという自負がある。



「あっ、は…やだっ…はずして…ッ」



だが常識というのは、多くの人と共有する空間に於いてのみ、いわゆる世間一般的な日常に於いてのみ、比較対象である日常があるからこそ、受動的に半ば強制的に浮彫になるものではないかと、日番谷は考える。
要するに、その空間がもともと日常的なものでないのなら、常識もへったくれも介在する余地なんてないのである、と。



「目隠しは流石にやりすぎだったか?…でもな、身体ってのは良くできてるもんで、無くなった分の感覚を他の所で補おうとするんだよ」

「やめ、て…ください…っ」

「今のお前に必要なのは、触覚だけだからな…」



自分の床事情に関して、こと名前に対しては、他所よりも激しくしているだろう認識もあったし淫慾甚だしいことは自覚していた。もちろん、他人のそれを見たことがあるわけではないが。
ただそれでも、好きだからこそそうしたくなるわけであって、誰彼構わずやってきたわけではない。相手が名前だから色々と口外するのも自粛したくなるような事だってしてきたし、これからもしていきたい。
だから、今夜の趣向もそれの一つなのだと、言った所で当の本人に理解されるとは思っていないが。



「ひどいです…こんな格好っ…」



羞恥に顔を歪めながら、日番谷の下で名前が身動ぎする。もっとも、目隠しをしているので実際の所どういう目をしているのか見えているわけではないが、それでも想像は容易かった。

背中で両腕を縛られ、布団に転がされた名前。後ろ手で縛られているせいで胸を迫り出すような格好になってしまっているそれは、本人にしてみれば恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないのだろう。
日番谷にとっては、まさに据え膳である。



「そうは言ってもなぁ名前、もうここ勃ってきてるぞ……ああ、見えないのか」

「あふっ…んっ…そ、なこと…ない…っ」

「なんなら、今夜は俺が逐一実況でもしてやろうか」



ぶわっと、名前の顔に赤みが差す。耳まで染まったそれに、思わず込み上げる昂揚感。そのまま耳たぶをしゃぶり、舌先で中をほじくるようにしてやれば、ビクビクと震え首を反らせる姿に日番谷の口元は弧を描く。

外気に晒され小さく粟立つ肌を意味ありげに撫でると、息を飲んで身構える名前がまた愉快で。視覚が奪われた名前は、日番谷の為す事すべてに過剰に反応する。防衛本能とも言えるそれに、正しい反応だと日番谷は目を細める。
だってそうだろう、最も無防備な形で、子うさぎが狼の目の前に抛られているのだから。



「まあ安心しろよ名前…今日のやり口はお前の好みだろうよ」

「…? な、に…」

「いつも言ってるだろう?刺激が強すぎるって…。だから、今夜弄るのはここだけ、だ」

「んんっ…!」



むにゅりと掴み上げる慎ましい胸。決して大きくはないが、敏感に反応を返す名前の胸を日番谷は気に入っていた。大きさよりもその反応云々の方が男を誘うには重要であるし、何より元々の素質を更に伸ばしたのは他でもない日番谷だ。

今夜はここだけ。
そう言われた名前は少しだけ身体から力を抜いて、安堵とも取れる表情をしていた。何がどうあれ、安堵などと、そんなものとは無縁の行為であることも忘れて。だがしかし、日番谷の言葉の真意など彼女に理解することは到底むりな話であって、それも仕方のないことだろう。
だから名前は知らない、知る由もない。
この時、日番谷がどんな顔をしていたのかを。


 

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