マーキング




一足早く仕事が終わった名前を部屋に呼ぶと、すでに風呂に入った後らしくその香りは昼間とは打って変わっていた。砂糖のように甘く花のようなそれは、日番谷にとって好ましくもあり、そして物足りなくもある。

まっさらすぎるのだ。

誰の足跡もない新雪に一番に踏み入りたい子どものように、男はそのまっさらな香りを汚したくなる。自分色に染めたくなる。
何度抱きつぶしてもその名残は日増しに薄れてしまうもので、結局いつの間にかまっさらに降り積もった新雪に、男共は寄ってくるのである。全く以て厄介だ。
厄介なのだが、どれだけ男共が集まろうとも、とどのつまりその新雪を汚せるのは自分だけなのだと思うと、堪らない優越感と背徳感が日番谷を駆り立てる。



「んっ、やぁっ、隊長っ」



舌を吸い上げ唇を合わせキスをして、垂れた唾液を辿るように首筋へ。薄い皮膚に歯を立てると、肩を強張らせて名前が抵抗する。



「明日は昼間の会議の続きがあるんです…だからっ、あ、うぅっ」

「それは好都合だな」



ぐぐっと歯を押し当てると、名前が小さく呻く。キスマークというより噛み痕と言った方が正しいそれを舌でなぞると、耳の裏、首筋、鎖骨、肩…次々に吸い付いて痕を残していく。
もちろん、着物を着ても隠れない場所へ確実に。



「はあっ、ぁっ、はっ…」



すでに息が上がっている名前を日番谷は愉しげに見下ろす。無駄に抵抗をするからそうなるのだと、抵抗したところでお前にとっての状況は何一つ好転しないのだと、わかっていても教えてはやらない。やるわけがない。

日番谷から逃げるように首を逸らす仕草は、まるで噛み付いてくださいと言わんばかりだ。反らされ晒された首筋に牙を立て、吸い上げて。
執拗なまでの所有印はどんどん下へと降りていく。抵抗する手を事もなげに退けると、シュルリと紐解かれる慎ましい身体。そして、まっさらな身体にはアンバランスな、赤く劣情を示す突起がピンと勃ち上がっている胸元。



「いやあぁ…見ないでください…っ」

「それは、見ろ、ってことか」



くしゃりと名前の顔が歪んだ。
ずっと目の縁ぎりぎりに留まっていた涙が、羞恥にぽろぽろと零れていく。どうしてこうも人を煽るような事ばかりするのかと嘆息しつつ、日番谷の指先は無遠慮に二つの柔らかなふくらみに沈められる。
未だ抵抗の色を見せつつも情けなく歪んだ表情を眺めながら、円を描くようにやわやわと胸を揉みしだけば、名前の唇からは感じ入った吐息が溢れてくる。



「んふ…や、だぁ…あっんぁっ…」

「随分と説得力のない抵抗だな、どうしたんだ?」

「は、あっ、う…はずかし、…ひぃんっ!」



決してふくよかとは言い難い胸は、強めに揉むだけで敏感な中央にも刺激が伝わるらしく、切なげに寄せられた眉根がそれを物語っている。別に焦らすまでもないとピンと主張した乳首を摘まみ上げれば、うわずった小さな悲鳴を上げて名前の身体が跳ねた。



「あ、あっ…んふっ、ひあっ…あぁっ…」



片方は指で押し潰しながら、片方は舌で転がしながら。コリコリとした感触を楽しみながら責め立てれば、日番谷の下で名前の身体がビクビクと跳ね上がる。
一番敏感な乳首の先っぽ、そのくぼみを爪でカリカリと引っ掻くようにしてやると、堪らないと言わんばかりに背中を反らせて名前が悶える。だらしなく涎を垂らして嬌声を上げる姿に、日番谷の中で愉悦と嗜虐心とが絡み合って上がっていく。



「なんだ名前、そんなに腰くねらせて…恥ずかしくて嫌なんだろう?もっと抵抗したらどうだ」

「ま、まって…あ、やっ、そっちは…やあぁっ!」



間近にある喉がひゅっと息を吸い込んで身構えたのも束の間、日番谷の手が名前の脚を無遠慮に掴み持ち上げた。上がった制止の悲鳴などお構いなしに、そのまま浮いた腰の下にクッションを入れて固定する。
上半身よりも下半身の方が高く固定されて、彼女にとって最も恥ずかしく最も敏感な部分が日番谷の眼下に晒される。顔を真っ赤にしながらやめてやめてと抵抗する名前をてっとり早く黙らせようと、日番谷はその下肢に手を伸ばした。



「いああぁぁっ!」



ビクンと、名前の身体が大袈裟に仰け反って震える。迷うことなく一番敏感な突起をなぞり上げると、抵抗も制止の声も止んで聞こえてくるのは快感に翻弄される嬌声だけだ。



「あ、はっ…んあぁっ!ひぃ…ぁっ…!」



今夜は、最初から焦らすだのなんだのという嗜好は考えていなかった。
与えられるだけ、それこそ本人の意思など関係なく、限界まで与えて。己の手管で快感に染まりきった名前が見たい。

色を付けて、汚して、落としこんで。
自分のものだと、自分が染め上げたのだと、思い知らせたい。それはまるで子どものような独占欲と顕示欲だ。



「ひ、ひっ…ん゛っ!んあ、はっ…だめ…ぇ…っ!!」

「…なんだ、もうイったのか」



とろりと、中から新たな蜜が溢れ出す。
ひくひくと痙攣しながら荒い呼吸を繰り返す名前は虚ろに日番谷を見上げる。性急すぎると言いたげな瞳を無視して、日番谷は達したばかりのそこを覗き込む。
散々擦ったせいで皮が剥けむき出しになった肉芽。顔を近付けふっと息を吹きかければ健気に反応を示すそれは、男を誘っているようにも見えた。



「い、ま…いったばかりだからぁっ…あふっ」

「だからこそ、だろう?」

「ひいぃっ!まっ、あ、あっ…いああぁっ…!」



ぺろりと舐めて、一気に吸い上げる。達したばかりで敏感すぎるその突起に吸い付けば、名前は引き攣ったように身体を震わせて声を上げる。
コリコリとした弾力のあるそれを舌で捏ね回して、更に固くなったところで軽く歯を立て甘噛み。鋭く突き抜けるような快感に、名前はただただ悶え苦しむしかない。



「らめ…ぇ…!ああっ…い、ッ…ひぐっ…!」



一瞬息を詰まらせて固まって、直後にガクガクと身体が不自然に痙攣する。ああ、またイったのか…と他人事のように甚振り続ける日番谷に、名前は必死に呂律の回らない舌でやめてくださいと訴える。
そんなお願いを聞いてやったことなど、ただの一度もないと言うのに。



「うあ゛っ…ああっ、いぁっ…も、ゆるひ…てぇ…ッ」

「許す?なんだ名前、何か俺に謝るようなことでもしたのか」

「ひ、い…ッ、ごめ、な…ひゃ…ああぁっ!はひぃっ…」



涎を垂らして、快楽に悶えながら、名前は日番谷に許しを乞う。許してもごめんなさいも、もはや本人にそれを口にした自覚などないだろう。

擦られ過ぎて赤く腫れ上がった肉芽を押し潰せば可哀想なくらいに悲痛な声が返ってくる。達している最中でも容赦なくそれをされ続けるのだから、名前が快感に咽び泣き許しを乞うのも仕方のないことだろう…と、これまた他人事のように日番谷は笑う。



「おい名前…しっかりしろよ。まだ寝るような時間じゃないだろう」



秘部を曝け出すような位置で固定され甚振られながら、逃げるように上半身をひねってシーツに縋り付く名前。その姿は酷く哀れで、被虐的で。身体中に散りばめられた所有印と相俟って、どうしようもない昂揚感を日番谷に与えていた。



「あ…はひっ…ひっ…」



段々と光が失われていく虚ろな瞳に向かって呼びかける。そうさせているのは他ならぬ日番谷なのに、それでもやはり意識を飛ばされるのはつまらない。なんて利己的な行為なんだと悪びれることすらない。
脚の付け根に歯を立て無理やり意識を引き戻せば、快感に翻弄されすすり泣く名前は非難も反論も出来ず、ただひたすら日番谷の指先舌先に溺れていく。



「はぁっ、ああーっ…あ゛、ひっ…いッ…!!」

「はっ…中もすごいことになってんな」



首を振りたくり、つま先を丸めながら何度も何度も達するそれは、もはや気持ちいいよりも辛いと言った方が正しいのだろう。
ぐちゅりと中に突き立てた指は的確にピンポイントに、名前の感じるところだけを刺激する。抉るように幾度となく執拗に擦れば、水気が増しピシャピシャとシーツを濡らしたそれに、潮吹きまでしたのかと日番谷はさらに責め立てる。



「どんどん溢れてくるな」



中を責める指と一緒に肉芽を吸い上げてやれば、目を見開いて口をはくはくさせながら声もなく名前は絶頂した。だらしなく開きっぱなしの唇はもう言葉を紡げない。

スルリと、自分の腰紐を解いて前を寛げた日番谷の口角が静かに上がる。
いつも明るく快活に光る瞳は、今は見る影もなく虚ろに日番谷だけを映している。まっさらで恥ずかしがり屋で初心な名前の、本人ですら知らない淫猥な身体。潮吹きまでさせられ、あらゆる体液に塗れ、優しく淡くかおった香りは色濃く淫らに塗り替えられていく。



「んあぅっ、いっ、ひはっ…ひ、ああぁぁぁ!!」

「ほら…もう少し力抜かねぇと、辛いのは自分だろ」

「ッ、はひ…やあぁっ…ひぐううぅ…っ!」



これから、最後の仕上げとばかりに中も外もすべて白濁に染まるその身体。あと少し。もう少しで、日番谷の納得するものが出来上がる。
砂糖のように甘く花のように柔らかい、そんな生易しい香りでは物足りない。欲に塗れた己の香りと交じり合って匂い立つばかりになった名前は、さぞかし日番谷を満足させることだろう。

出来ることなら、明日、件の会議の場に日番谷も在りたいと思ってしまう。
名前は気付かない。快楽に塗れた後の自分が、どんな顔をしているか。どんな香りを振りまいているか。ともすれば、ある意味余計に男を誘ってしまうかもしれないそれ。
だがしかしそこには、見え隠れする、隠しきれない、別の匂いが確実にある。それは同じ男だからこそ、過敏に反応し余計に気付いてしまうのだ。そしてダメ押しの所有印…。群がる雄たちは、一体どのような顔をするだろうか。



「きっと見ものだろうなぁ、名前」



男は狼だの飢えた獣だのとはよく言ったものだ。まさにその通りだと、己の欲望を満たすため更に深く深く日番谷は腰を揺する。どんなに紳士ぶっていても、優しい上司を気取ってみても、結局本質は何一つ変わらない。
まっさらな新雪も、誘う香りも上がる嬌声も、何もかもが自分だけのもの。
名前の瞳に映った狼に、日番谷は一人ほくそ笑んだ。






end




5億年ぶりくらいにエロを書いたっ(真顔)
R18なお話って、どうしてこんなに体力と精神力を削られるんでしょうね。
内容は全く関係ないですが、一応お誕生日用に書いたお話です。おめでとうございます。微塵もバースデー感ないですけど。

日番谷さんのお誕生日に向けて書き始めたその日は、12月21日でした…


 

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