ハブラシ




部屋に着くと言葉も少なにソファーへ雪崩れ込み、キスをしながら短めのスリットが入ったスーツのスカートを脱がされた。ブラウスの前もはだけさせられて愛撫を受ける。今日は早急だなとぼんやり思ったけれど何となく私自身こうなるだろうとは思っていたから、甘んじて目を瞑って小さく熱っぽい吐息を吐き出した。




「あっ、とうしろっ…」



既にトロトロの私の身体は、冬獅郎が舌を這わせる度にあられもない声を上げさせる。映画を観て、ショッピングをして、そしてめずらしく冬獅郎の行きつけだという小洒落たダイニングを紹介されそこで夕食を食べた。いわゆるデート。
その帰り道、年中イルミネーションの灯る街を歩いていると、まるでタイミングを図ったかのようにその仄明るい光の下で男女が唇を重ね合っていた。街路樹を挟んで飛び飛びに、バカみたいに沢山の男女が。
日本は恥の文化だとか言うけれどそんなのは結局言い訳で、ひとたび先駆者が居ればみんなこうも恥じらいなく水音まで立てるのか。頭ではそう冷静に分析してみるものの、どうしても目の前の光景にいたたまれなくなってしまい横目で冬獅郎を見れば、いかにもこの状況を愉しんでいる顔で私を笑っていた。やっぱりわざとか…とは思いつつ、否が応でも気分は変な方向へ行ってしまう。そして結局、彼の部屋に入った後はなし崩しだった。



「ん、あっ…はあんッ…」



ソファーの肘掛けに右足を掛けられ、両手首は背中で縛られた状態で私は冬獅郎からの愛撫を受ける。縛られる際に見えたネクタイの銘柄に罪悪感が募ったけれど私にそれ以上気にする余裕なんてなかった。
冬獅郎はいつもそうだ。体位だとか場所だとかシチュエーションだとか、私が恥ずかしがって嫌がることばかりさせる。どんなに抵抗しても結局私自身最終的には快楽に堕ちてしまうから、お互いどっちもどっちなのかもしれないけれど。



「あっ…や、ああっ…そこ、だめ…ぇっ」

「冗談は自分の身体を見てからにしろよ」



彼の舌が私の反応しきった突起に触れて身体が跳ね上がる。上半身への愛撫で既にそこは恥ずかしいくらい赤く充血してしまっていた。
声を上げながら私はちらりと冬獅郎を見る。プライドの高い彼の普段からは想像もできない、ソファーの下で跪いて私の下腹部に顔を埋めている姿。もちろん彼が跪いているといっても、それで善がってされるがままになっているのは私なのだから結局主導権は冬獅郎にあるわけだけれど。…でも。
そんなことを考えていたら、不機嫌な声音と共に突然の強い刺激が襲って身体が痺れた。



「ひっ…やああッ…!」

「他の事考えてんじゃねえよ」



多分こういう時の冬獅郎を突き動かしているのは独占欲ではなく単純な支配欲なんじゃないかといつも思う。そもそも独占欲なんてのが甘い考えだ。
舌で舐められるだけで抗えず声を上げてしまうほど過敏に赤く膨れている私のそれを、冬獅郎は食い込ますように歯を立てて甘噛みしてくる。一瞬で頭は真っ白になってバカみたいに大きな声が出てしまう。咀嚼するように執拗に食んでくるヒリヒリと刺すような刺激は脳まで達して涙がぽろぽろと零れるけれど、その刺激は私には強すぎてイくことすら出来ない。頭や身体が処理出来ないほどの快感は拷問のように辛いだけだ。身も心もグチャグチャになって、思考回路も焼き切れてくる。冬獅郎はそれを知っていて、わざとそういう刺激の仕方をしてくるんだ。



「ひあっや、やっ…も、らめ…ああぁっ!」



必死に理性を保とうと堪えていたところへ一本ではない指が入ってきて適当に解される感覚。ぐちゅぐちゅと音を立てる動きは確かにいい加減なのに、その指先はありえないくらい的確に私の好いところだけを突いてくる。
突起を歯と舌で扱かれるビリビリと痺れるような刺激と、ぐりぐりとナカを擦られる身体の芯まで熱くする刺激。不自然なほどガクガクと痙攣する身体はもはや私の意志なんて関係なくて、全て冬獅郎の思うがまま、支配されきっている。それほど痛烈な刺激なのに強すぎてイくことが出来ないとか、そんなの、堪えられるわけがない…。

一回でいいから、イかせて…快感を、消化させて…お願いだから…じゃないと、おかしくなるっ……。



「ひはっ、ああッ、もっ、ゆるして…ぇ…!」



離れた唇とそれに呼応するように一気に激しくなる指の動き。ビクビクと跳ね上がる腰を押さえつけられてより深く抉られた瞬間、ぶるりと震えた身体に私の口からは声にならない嬌声が溢れ出す。半壊する意識の中、満足げに口角を上げる冬獅郎の姿が片隅に映った。



***



そうして私は完全に堕ちた。

いつもそうだ、私があそこまで壊れないと冬獅郎は絶対に挿入しない。限界を越えて、グチャグチャにぐずぐずにならないと、冬獅郎は満足しない。結局はただの支配欲だけなのだ。

その後の記憶はほとんどなくて、目が覚めると丁寧に清拭されていた。情事の痕などなかったかのように綺麗な身体。行為が激しければ激しいほど、その行為をなかったことにするかのように労り甘やかす。いつだってそうなのだ。冬獅郎は、優しいから。
さすがに服は冬獅郎のワイシャツを掛けられていただけだったけれど、エアコンのおかげで寒くはなかったし、そのワイシャツも新しいものだった。



「起きたのか」

「うん…今何時?」

「今夜は来ないから泊まっていけばいい」

「…そっか。じゃあ、そうしようかな」

「シャワー浴びてこいよ、お前の好きなバスソルトも入れてある」



同じくソファーに座りながら、サイドテーブルにパソコンを置いて仕事をする冬獅郎が声を掛けてくる。ふわっと私のお気に入りのバスソルトが香る。裸の私が暖かく感じるっていうことは、服を着てお風呂上がりの冬獅郎にはきっと暑いくらいなんだろうな。
やっぱり優しいよ、冬獅郎は。

腰の痛みに堪えつつお言葉に甘えてシャワーを借りると、ぶかぶかのワイシャツを着て寝る準備をした。借りる服がワイシャツというのもやっぱりいつものことだ。お泊まりをして相手のワイシャツを借りるとか、定番すぎてちょっと笑えてくる。でもそういう定番って嫌いじゃない。むしろ好きな方。マンガとかドラマみたいで、結構好き。多分冬獅郎も意外とこういうの好きなんだろうな。
…だから、毎回彼の匂いのしない新品のワイシャツだって、文句は言わないよ。



「歯磨きしてくる」

「ん。」



大きめの洗面台の鏡の前にはお揃いのハブラシとコップが並んでいる。片方はネイビー、そしてもう片方は可愛いピンクのハブラシとコップ。それを見つめてから、私はポーチから携帯用のハブラシを取り出した。ピンクとか可愛いよね、ほんと。多分私だったら選べないなぁなんて考えて笑った。

羨ましいとは思わない。ただ、憧れを抱かないほど強くもない。

ハブラシとコップ。たったそれだけのものにひどく憧れてしまうのは、きっとそれが日常だからだ。仮に私が今それを棄ててしまっても、次にこの場所に踏み入った時にはもう既に新しいお揃いが並んでいるだろう。当たり前だ。それが日常というものだ。非日常である私なんて、始めから土俵にすら上がっていないのだから。
色々とごちゃごちゃ考えていたら面倒くさくなってきて、私は適当に歯磨き粉を付けて口の中に突っ込んだ。う、ちょっと辛い…なんて思ったけれど気にしない。歯磨きの最中は無心になるタイプなんです。全く以て都合がいい。だからいつの間にか冬獅郎が後ろに来ていたのには軽く驚いた。



「…うあっ」



小さく声を上げて鏡越しに後ずさると、必然的に後ろにいた冬獅郎にこつんとぶつかる。そのままもたれるように体重を預けて顔を上げれば、私を見下ろす冬獅郎は「部屋主がいて悪いかよ」と返してきた。二人でクスクスと笑い合う。
ああ、楽しいね。優しいね。ずるいね。
慣れた手つきで冬獅郎がハブラシと歯磨き粉を手に取ると、私の横に並んで口にくわえる。シャカシャカシャカ。シャカシャカシャカ。終始無言だけど、それが苦痛じゃないのはきっと…――。



「俺、歯磨くときは無心になるタイプなんだよな」



さっきのクスクス笑いなんて比じゃないくらいに可笑しくなって、私は涙を流しながらひーひー笑った。






end




歯磨きの最中って無心になりません?私だけですかね…。
歯磨きからも見てとれるようにこの二人実は似通ったところがあって。そんな自分(達)とは違うタイプの彼女を作った日番谷さんにやっぱりな・なんて思いながら、身体だけの関係をずるずると続けてしまっているヒロインちゃんです。実は今の彼女さんよりもその付き合い自体は長いのだけれど、長いが故にセフレ以上に中々なれなくてでも離れられない…←今ココ。的なお話でした。
だがしかし元々は裏にするつもりがなかったので、なんか山もオチもないぬるっとした話になってます…。

そういえば表にも浮気話を載せました。普段はバカみたいにハッピーエンド主義なので逆にたまーに書きたくなっちゃうんですよね、こういうお話 (^0^三^0^)
道ならぬ恋、略してMNKシリーズです(笑)


 

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