高山さんちの風邪事情
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「38.8℃…。」
朝起きると、隣で寝ている楓が妙に赤くて熱い気がしたので、熱を測ってみました。結果、高熱。
「び、病院…連れて行かなきゃ…あとは、うーん、あ、俺会社休まないと!」
楓は丈夫な子で、椛さんが亡くなってからは軽く風邪を引いてもここまでの高熱は出さなかった。故に、今、ちょっとテンパっている。
「父さん、ぼく、一人で病院行ける…」
「何言ってるんだ、こんな熱で。危ないから父さんが連れて行くからな。」
ぼやーっとした顔で、ベッドに腰掛けている楓は俺の手を掴んだ。手まで熱いじゃないか。思わずきゅっと握り返す。
「でも、父さんお仕事いそがしいのに…。」
そんなこと気にしていたのか。こんな時まで健気な息子に、思わずキュンとする。可愛いなぁ…!
「楓。父さんは、仕事と楓なら、楓の方が大事だよ。」
「父さん…。」
しゃがんで、目線を楓に合わせてそう言うと、楓は微かに笑い抱きついてきた。熱いなぁ。可哀想に、苦しいだろうに。そっと髪を指で梳く。
「ありがとう、父さん、だいすき。」
「うん。パジャマ着替えて、病院行こうな。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝おきたら、熱があった。
めずらしく、父さんがあわててた。
今は、父さんがきがえさせてくれてる。
自分でできるけど、なんだか頭いたいし、ぼーっとするから、あまえちゃう。
ぷち、ぷち、とボタンをゆっくりはずされて、ひんやりとした空気が熱い体を冷やしてくれて、気持ちいい。
「汗、かいてるな。」
父さんの手がペタリとぼくのワキバラをさわった。ちょっとくすぐったくて、ビクッとしてしまった。父さんは「ごめん」と言ってすぐ手をひっこめた。ううん、何でもないからだいじょうぶだよ、父さん。
長袖のシャツとあったかいセーターを父さんは着せてくれた。次に下をぬがされる。
「父さん、汗、気持ちわるいから、パンツもかえたい…。」
「…ん、そうか。」
ちょっとだけ、父さんがビックリしたように見えたけど、気のせいかな。新しいパンツをタンスから取ってきた父さんは、うーん、と手の中のパンツをにらんでる。
「自分で着替えられるか?」
「うん。」
ぼくがベッドからおりて立つと、父さんがパンツをわたしてくれた。受け取って、汗かいたパンツをぬいで、新しいパンツにきがえる。その間に、父さんは自分のパジャマをきがえる。
したくは全部父さんがやってくれた。ぼくはそれをぼーっと見てた。時々ぼくを気にかけてくれる父さん。やっぱりだいすきだよ。
◇ ◇ ◇
ベッドに腰掛ける楓のパジャマを脱がす。
…なんていうか、コトを始めるようで少しやらしいなんて考えていたのは秘密。
だから、パンツも替えると言われたとき、ドキリとしてしまった。なんつーアホだ。楓が熱出して苦しそうだというのに。しかしまぁパンツまで替えてあげるというのも如何なものか、とちょっとパンツと睨み合いをした結果、楓に着替えさせることにした。ベッドの上でパンツ脱がすとか…俺の理性が耐え得る保証がない。
すっかり支度を整えたら、楓を車に乗せて病院へ。
医者に聴診器当てられてる楓にさえ軽くムラッときたんだから、俺の脳みそは中学生並みだ。なんだかスケベな事ばっかり考えてるアホだ。
診察結果は、風邪。薬が一週間分処方された。
家に帰ってきて、軽くご飯を食べさせ、薬を飲ませる。おいしくない薬のようで、楓は口をへの字にして飲み込んでいた。そういう表情さえ、いちいち愛らしい。
「あとはゆっくり寝て、体を休めなきゃな。」
寝室へ連れて行き、ベッドに寝かせる。毛布を掛けて離れようとした時、楓が服の裾を掴んだ。
「ん?どした?」
「……父さん、下行くの?」
「ああ、できる仕事をやっちゃおうと思ってね。」
「あのね……、」
楓は何か言いかけては口を噤み、また口を開いて閉じる。ああ、もしかして、一人じゃ寂しいのかな。
「パソコン、持ってくるな。ここでもできる作業だから。」
ぽん、と頭に手を置いてそう言うと、楓は恥ずかしそうに笑って「うん」と頷いた。どうやら正解だったようだ。
◇ ◇ ◇
父さんはやさしい。ぼくのワガママをきいて、今はとなりでパソコンをカタカタと打っている。ぼくはねむったり、目をさましたりしている。父さんは時々ぼくのおでこに手を当てて熱をたしかめたり、「きゅーけー」と言ってぼくのとなりにねころんだりする。
かぜがうつっちゃうんじゃないかって心配だけど、うれしい。
学校を休むのも、たまにはわるくない。こうして父さんとふたりでいられて、父さんがやさしくめんどうみてくれる。あまえても全然だいじょうぶ。
ううん、父さんはいつもやさしい。いつも、ぼくのワガママを聞いてくれる。休みの日はいつもいっしょにいてくれる。
「父さん、」
2回目のきゅーけーでとなりにねころんだ父さんの方をむいて、ぎゅっとだきついた。
「楓?どうした?具合悪いか?」
ふふふ、父さんは、いつもやさしい。
「父さん、だいすき。」
ちゅうっと父さんのほっぺたにちゅーをした。「急にどうしたんだい?」とびっくりしてる父さん。そんな父さんにもう一回、今度は口にちゅーをした。あ、かぜがうつっちゃう。
でも、父さんにもっとちゅーしたい。だいすきって気持ちをぜーんぶ、わかってほしいから。だいすき、父さん。
「んっ、こら、楓……!」
おこってるんじゃなくて、こまってる父さん。もっとこまらせたくて、何回もちゅーをする。ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。
「楓……っ!」
少し強く、父さんの手がぼくのかたをつかんで引っぺがした。父さんのこまってる顔だ。
もっとこまって。ぼくにかまって。
「すき。だいすき、父さん。」
横むきにねそべってむかい合ったまま、ぼくは父さんを見つめる。父さんはぼくの頭をなでながら「うん、分かったよ」と言った。
「分かったから、もうちゅーはお終い。」
「もっとしたい……。」
おねだり。ダメかな?おこられるかな?じっと見つめると、父さんは大きくためいきをついた。……いやなのかな。
「楓、」
「はい。」
苦しそうな父さん。まゆ毛がくっつきそうなくらいしかめっ面で、ぼくをよぶ声は低くて。
「キス、教えてやろうか。」
「?……うん!」
よくわからないけど、父さんがすごくしんけんだったから。
父さんはぼくのとなりから、ぼくの上に移動した。父さんに見下ろされてる。ゆっくり、その顔がおりてくる。すぐ近くまで父さんの顔がきて、ぼくは目をつむった。まつ毛がぶつかっちゃうくらい近くに父さんがいて、ふにっと口と口がくっつく。ちゅー、してる。
いつもとちがうのは、父さんがぼくのくちびるを吸ったりなめたりすること。
ちゅうっと下くちびるに吸いつかれて、口が開く。そこに何かが入ってくる。温かくて、ぬるっとしてて……あ、父さんのベロだ。ビックリして目を開けた。父さんも目を開けてぼくを見てた。
「楓、舌出してごらん。」
いったんはなれた父さんがそう言うから、ぼくはおそるおそるベロを出す。
「ほお?(こう?)」
「ん、イイコだ。」
父さんの大きな手がするりとぼくのほっぺをなでる。そして、父さんが、ぼくのベロを食べた。
「んっ、んむ…、」
ちゅううっと吸われてビックリする。でも父さんは、はなしてくれない。そのままベロをからめて、ぼくの口の中で動かす。歯をなぞったり、うわあごをくすぐったりする。そのたびにぴちゃ、ぴちゃ、って音がする。
「む…ふは、ん…っ、」
父さんのベロが熱い。口の中、トロトロにとけちゃいそう。父さんがふれるところ、くすぐったいけど気持ちいい。時々、口がはなれて、息を吸って、またくっついて。
キスって、熱くて、とけそうで、気持ちいいんだ。
「ぷは。」
「ん、楓……。」
むちゅうになってて、口のまわりがヨダレでべたべたになってた。父さんがそれを指でぬぐってくれる。父さんもぼくも、息があらい。
「これが、キスだよ楓。」
いつものちゅーじゃなくて、キス。うん、おぼえたよ父さん。ちゅーよりも気持ちよくて、父さんといっぱいふれあえる。
「……さぁて、父さんは夕飯の準備しないとな。楓はまだおとなしく寝てなさい。」
「はぁい。」
父さん、だいすき。
◇ ◇ ◇
お、れ、は。何してんだチクショー!!!
米を研ぎながら中々激しく自己嫌悪。
なーにが、キス教えてやろうかだよ。教えるべきは俺じゃなくていいんだよ。しかもキスっていうかディープキスだよ。大人のキッスを小学生に教えてどーすんだ。つうか何ちゃっかりがっついてんだよ俺!
水を捨てながら、溜め息。土鍋に米を移し、水を計って火にかける。楓のためのお粥だ。
楓、風邪引いてるのに俺は…欲丸出し。
どんなにちゅーされようが、耐えねばならなかったのだ。それが「すき、だいすき、もっとしたい」の一言や二言で理性のダム決壊させて、親失格じゃないか。
小葱を刻みながら、己の不甲斐なさに腹が立つ。あと味噌汁も作ってあげよう。楓の好きなやつ。
それにしても、抵抗されなかったな。ちょっとぎこちなくて、でも一生懸命応えてくれて。あのとろん、とした顔とか。可愛い。可愛い楓。
違うって。そうじゃなくて。ああでも駄目だ。本当に可愛くて仕方ないんだよ。愛おしい。
楓、愛してるよ。
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