小説 高山さんち。 | ナノ




高山さんちの卒業式事情
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 今日は卒業式。

 楓の晴れの門出の日だ。

 今朝は楓が先に家を出た。俺は、式が始まる時間に合わせて小学校へ。

 この式典の日だけは、学校に決められた服に袖を通す。白いシャツと、紺のベスト、ハーフパンツに、紺のハイソックス。楓が、父さんみたいにネクタイしてみたい、と言ったので赤の子供用のネクタイを付けてあげた。
 我が子ながらよく似合ってると思う。なんというか、利発そう。いや、親バカだけれども。

 ビデオカメラは持たない。椛さん曰く、レンズ越しより直にこの目で見てあげたいから、と。それに習って、俺もきちんとこの目で楓を見てあげたいと思う。涙で見えなくなったらごめん。

 今日で最後の出番となるランドセルを背負って、楓は元気に家を出た。その背中を見送りながら、こんなに大きくなったんだな、としみじみ。いかん、この調子では式は号泣……?それは避けたい。

 だいたい、ああいうのは教師と児童がタッグを組んで保護者を泣かせにくる行事だと常々思っていた。その思惑にまんまと嵌められるのも、なんだかなぁ……。

 なんて、考えながら保護者席に座っていたのだった。数十分前までは。

 今、卒業式が始まってプログラムは『卒業生のことば』だ。児童が一人一人、保護者に感謝の言葉などを贈る。らしい。

 で、楓に順番が回ってきて俺はやっぱり涙目になってしまったのだった。

「いつも、ぼくのために働いてくれる父さん。大きくなったら、父さんみたいになれるようにがんばります。ありがとう。」

 泣かないわけがない。

 椛さん、聞いててくれた?俺はちゃんと父親としての背中を見せることができているのかな。駄目な所ばかりだけど、楓はちゃんと良い所も見つけてくれるかな。
 
 六年間、二人で寄り添ってきた。

 いや、楓が寄り添ってくれてた。

 こんな俺でも、父親として認めてくれるなら、俺はそれに応えなければ。

 ありがとう、楓。

 俺もこの歪んだ愛情、卒業するから。

◇ ◇ ◇

 今日は卒業式。

 僕は父さんより早く家を出た。一人で学校に行くのはとっても久しぶり。

 でも、実は一人じゃないような気分。

 だって、母さんが大事にしてたペンダント、こっそり付けてきたから。シャツの中にかくしてるんだ。これで、母さんもぼくの卒業式見にきてくれてるみたいだね。

 卒業生の入場で、式が始まる。
 ぼくはすぐに席の中から父さんを見つけた。目があったとき、父さんが笑いかけてくれたから、きんちょうしなくなった。

 『卒業生のことば』が今日一番のがんばりどころだ。みんなそれぞれ、父さんか母さんか、それか両方にありがとうの気持ちを伝える。ぼくはもちろん、父さんに。

「いつも、ぼくのために働いてくれる父さん。大きくなったら、父さんみたいになれるようにがんばります。ありがとう。」

 本当は、だいすきな父さん、って言いたかったんだけど、長いからって先生にカットしようねって言われちゃった。

 母さんがいなくなってから、父さんはずっとぼくのためにがんばってた。

 ぼくがちゃんと、学校に行けるように。
 ぼくがちゃんと、ご飯を食べれるように。
 ぼくが、さびしくならないように。

 父さんに何かしてもらうばっかりじゃなくて、ぼくも父さんに何かできるように、がんばるね。

 だいすきな父さん、ありがとう。

 これからも、よろしくね。







【終】




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