小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.7
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 バーのカウンターでグラスの氷をカラコロ言わせながら、

「はぁぁ。」

 深い溜め息を吐く。これで今日何回目だろうか。

「ヤダ、仁が溜め息吐いてる。」
「あれ、ユウ。久しぶり。」
「ウン、仁とは久しぶりー。」

 背後から茶化す声がして振り向くと、よく知った顔が笑っていた。この店の常連客のユウは友でもあり、女のような口調だけど正真正銘の男である。店で会うのはちょっと久しぶりだった。

「それより、溜め息なんか吐いてどーしたのよ?楽しい夜が台無しよ?」
「まぁね、ちょっと失敗したっていうかねー。」
「分かった。例の、タクトくんでしょ。」

 人差し指を立てて自信満々に答えられ、予想外のことに焦りを隠せない。

「え、知ってる?例の、ってなに。」
「マスターから聞いたわよ。仁が未成年に目ぇ付けてるって。」
「人聞き悪っ!」
「ねぇ失敗って?珍しいじゃない仁のくせに。」
「んー。そうだねぇ。」

 昨夜の出来事を話す。電車を降りたタクトにキスしたところまで。思い出すだけでも忌々しいというか、腹立たしいというか、絶対どうかしてたんだ俺。

「なぁんだ、いつものことじゃない。気に入ったらすぐ落とそうとするんだから!」

 ケラケラとユウは笑った。そうだよ、俺だってそう思ってるよ。我ながら軽薄だと思うよ。

「それで、コロッと落ちたの?」
「落ちたら失敗じゃないんだけどー。」
「え、落とせなかったの?」
「……今日の昼に電話で、するつもりのないキスをした言い訳を。」
「ほうほう。」
「酔った勢いでーって。したらちょっと、冷たくされました。」

 ユウは少し驚いたようだが、それもすぐに爆笑へ変わった。

「アハハ!やっだぁケッサク!!ヘタクソね言い訳が!」

 自分でもそう思いますよ、とグラスの酒を一気に煽る。らしくないったらありゃしない。全然格好付かない。

「やぁねー遊び人が。本気でハマっちゃった?」

 目尻の笑い涙を指先で拭いながら、ユウが問う。

「わかんなーい。マスターおかわりー。」

 もう分からないよ本当。
 いつもなら。いいなって思ったらすぐに落としにかかるのに。そんで面倒な過程は省略、一晩でも楽しく過ごせれば満足。カラダだけの関係?いいじゃん気楽で。

「でもそんな気になれないんだよなー。」

 そんな呟きをアルコールと一緒に飲み込んだ。



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