Chapter.71
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傘も差さずに立っているその人を見たら、考えるより先に体が動いた。
自分より背の高い仁の頭上に、傘を掲げた。
「風邪ひくよ…」
もう全身濡れてるから、意味ないかもしれないけど、これ以上雨に打たれたら、仁が消えてしまいそうで怖くなった。
「タクト」
掠れた声が、名前を呼ぶ。
そしてその腕の中に、俺を閉じ込めた。
「ごめん、タクト。ごめんな。ごめん」
冷えた体。こんなに震えてるのは、雨のせいなのか。
「ごめん。忘れられない。タクトを忘れられない。他の奴のところに行かせたくない」
嘘みたいな言葉、心の隅で期待していた言葉がすぐ近くで聞こえる。
でも、でもさ。
「先に堤さんのところへ行ったのは、仁だよ」
「違う!ごめん。誤解させてごめん。ちゃんと話すから…聞いてタクト」
体を離して、真っ直ぐに見つめられた。必死な目が、俺を射抜く。
「うん、ちゃんと聞くから……だから仁の部屋、行ってもいい?」
一瞬、驚きで揺らめく瞳。
だって、こんなに濡れてちゃ風邪を引く。もともと低めの体温が更に低くなっていた。
手を握ると冷え切っている。はやく暖かいところへ連れて行ってあげたい。
「わかった……」
頷く仁の手を引いて、公園を後にした。
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