小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.70
---------- ----------

誰でもいいから、抱くか抱かせるかさせてほしい。
そう思って、いつもの店に足を運んだ。セフレだった奴とか、顔見知りとかいないかなーっと周りを見渡すけど、なんでか誰を見てもそんな気になれない。誰でもいいとか言いながら、選り好みする自分が愚かしい。

誰かこのモヤモヤをなんとかしてくれ。

結局、誰にも声を掛けることなく店を出た。外は雨。傘は持っていない。濡れるのも構わず歩き出す。
こんな気分、雨に流れてしまえばいい。
どうせならもっと土砂降りになればいいのに。あの日みたいに。

気の向くままに足を動かし続け、気がつけば駅裏のあの小さな公園にいた。

ここで、タクトに好きだと言った。
ここで、タクトに好きだと言われた。

なんで来てしまったのか。思い出してもタクトは戻ってこない。虚しくて、惨めになるだけだ。

しばらくぼんやりと突っ立っていた。
秋の冷たい雨は全身を濡らして体温を奪う。
このまま地面に溶けて消えてしまうのもいいな、なんてつまらないことを考えた。

不意に、水溜まりを踏む音がして。

反射的にそちらを見やれば、傘を持った人影が一つ。

「……仁?」

ずっと聞きたかった声が、名前を呼んだ。


[ 70/75 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -