Chapter.70
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誰でもいいから、抱くか抱かせるかさせてほしい。
そう思って、いつもの店に足を運んだ。セフレだった奴とか、顔見知りとかいないかなーっと周りを見渡すけど、なんでか誰を見てもそんな気になれない。誰でもいいとか言いながら、選り好みする自分が愚かしい。
誰かこのモヤモヤをなんとかしてくれ。
結局、誰にも声を掛けることなく店を出た。外は雨。傘は持っていない。濡れるのも構わず歩き出す。
こんな気分、雨に流れてしまえばいい。
どうせならもっと土砂降りになればいいのに。あの日みたいに。
気の向くままに足を動かし続け、気がつけば駅裏のあの小さな公園にいた。
ここで、タクトに好きだと言った。
ここで、タクトに好きだと言われた。
なんで来てしまったのか。思い出してもタクトは戻ってこない。虚しくて、惨めになるだけだ。
しばらくぼんやりと突っ立っていた。
秋の冷たい雨は全身を濡らして体温を奪う。
このまま地面に溶けて消えてしまうのもいいな、なんてつまらないことを考えた。
不意に、水溜まりを踏む音がして。
反射的にそちらを見やれば、傘を持った人影が一つ。
「……仁?」
ずっと聞きたかった声が、名前を呼んだ。
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