Chapter.6
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結局、仁のことが頭を離れずあまり寝られなかった。太陽の光が寝不足の目にしみる。
仁の真意は、あのキスの意味は。さっぱり分からない。
ひょっとして好意があって?そんな馬鹿な。きっと遊び慣れた大人にからかわれているだけなんだろう。繰り返す自問自答に答えは見えない。
昼休み、屋上でひとりの昼食を終えた後に携帯が震えた。
電話着信、藤枝仁。
ディスプレイを見て一瞬躊躇したが、通話ボタンを押した。
「もしもし。」
『タクト?俺、仁だけどー。』
普段と変わらない声音。低過ぎない甘い声。対照的に、緊張で硬くなる自分の声。
『昨日はなんか変なコトして悪かったね。思いのほか酔ってたみたいでさ。』
「そう、なんだ。」
あ、この先をあまり聞きたくない気がする。無意識にぎゅっと拳を握りしめた。
『本当ごめんね、びっくりさせて。もう悪ノリしないから、また遊んでよ。』
「うん、そうだね、また……。」
電話の向こうで仁が笑う。こんなこと言うために、わざわざ電話してきたんだ。メールで済ませればいいのに。冷めた思考がどんどん溢れてきて、舌先まで広がった。
「別にキスなんて初めてじゃないから、気にしてないよ。」
『あ、そう?ま、高校生だもんな。それくらい……、』
「昼休み、もう終わるから切るね。」
『ん、ごめんごめん。じゃあね、また。』
通話終了。
意味なんてなかった。酔った勢いで、ただそれだけ。たかがキスで舞い上がって、寝不足になった自分が馬鹿のようだ。遊び慣れた大人にからかわれているだけ、というのはあながち間違いではなかったんだ。
(馬鹿……。)
心の底でくすぶっている苛立ちは、自分の馬鹿さ加減に対するものか。
モヤモヤした気分は晴れない。
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