小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.67
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買い物帰りのユタカにたまたま拾われた日から、つまり仁と別れた日から既に幾日かが過ぎた。
店には行っていない。二人がいるかもしれないから。どんな顔して接すれば良いというんだ。

無為に日々を過ごすうちに、仁への気持ちも薄れるかと思ったが、全くそんな事なかった。

ある日、携帯が突然の着信を告げた。
驚きながら、ディスプレイをみれば、豊口という表示。ユタカだ。
なんてことはない、この前お世話になった時の話だった。声の後ろからざわめきが聞こえるのは、店で電話してるからだろう。その雑音の中から聞こえた、ユウの声。

もう仁をひとりにしないで

仁はひとりじゃない。堤さんがいる。でも、堤さんでは駄目だと言う。マスターも、ユタカも、ユウさんも。何故?
仁が俺を選ばなかった時点で、俺には隣にいる資格なんてない。

それでも。
隣にいたいと願う自分がいる。
それが、叶うとでも?

期待など抱けない。
堤さんは仁を返せと言い、仁は堤さんの元へ行った。
俺は、どうすればいいんだろう。どうするべきなんだろう。

ふと、いつかの篠宮の言葉が脳裏に蘇った。

『その人がどう思ってるか、じゃないの。吉川がどうしたいのか、よ』

俺が、どうしたいか?

俺は。

「……会いたいよ、仁」

もう一度。いや何度でも。
お願いだから、好きだって言って。


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