小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.64
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人混みを掻き分けながら、なんとか見つけたあの細い背中を見失わないように走った。

誤解させた。傷付けた。絶対。
違う、違うんだタクト。言い訳させて。逃げないで。
ようやく追いついて、なんとか肩を掴んだ。

「タクト!」

ゆっくりと振り向いて俺を見ても、タクトの目は暗い。

「タクト、ごめん…」

息を切らせながら、とりあえず謝った。一週間前のことも、今日のことも、全部ひっくるめて俺が悪い。

「…いいよ」

薄い唇が、告げたのは。

「堤さんのとこへ、行ったらいいよ」

許しではなかった。

「タクト、」
「俺はもう十分だから……もう、いいから」

ツツミが言った、タクトは俺を諦めるって。
本当に、本当なんだな。

俺は、もうタクトに必要とされてないんだ。

「バイバイ」

そう言ったタクトは歪な笑みを作って、そして背を向け去っていく。

遠ざかる背中をただただ見つめて立ち尽くすことしか、できなかった。


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