小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.62
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「仁が貴方を選ぶなら、俺は諦めます」

自分の方が勝っていると、自信に満ちた彼にそう告げることは、敗北を宣言したも同然だと思う。
堤さんは満足そうに「いいこだねぇ」と目を細めた。

「じゃあ遠慮なく貰おう。仁には、今までありがとう、とでも伝えておいてあげようか?」
「どうぞご自由に……」
「結構。俺の用事はこれで終わりだ」

そうしてさっさと堤さんは去ってしまった。それが数日前。

結局、仁とは気まずいままで、メールも電話もしていない。もしかしたらこうしている間にも、堤さんは宣言通り仁を自分のものにしているのかもしれない。胸がぎゅっと締めつけられて苦しい。
本当にこのままでいいのか?黙って仁が奪われるのを見ているだけで。いいわけがないと憤る自分と、仕方がないと挫ける自分がいた。
誰かに助けを求めたかった。思い浮かべたのは、いつもの店だった。


転がるように駆け込んだ黒い扉には「close」の札がかかっていた。そうだった、この店は不定休だ。
当てが外れた。
肩を落として途方に暮れていると、携帯電話がポケットの中で震えだした。ディスプレイに浮かぶのは見慣れた番号と、藤枝仁という名前。

「もしもし、仁っ……」
『やぁ、残念でした。仁じゃないよ』

なぜか聞こえてきたのは堤さんの声だった。
どうして貴方が?
そう聞く前に、彼は一方的に話し出す。

『今から××駅の北口のファミレスにおいで。仁と待ってるよ』

そして電話が切られた。
訳が分からない。でも、仁が待ってる?
足は迷わず駅の方へ向かった。


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