Chapter.60
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あれからなんとなくメールも電話もできずに、一週間以上過ぎてしまった。
一言、ごめんとか言えれば良いのだろうが、言い出せずにいる。さすがに、タクトだって呆れているかもしれない。大人気ない態度だったのは分かっている。タクトは悪くないことも。知らなくて当たり前のことを、知らないくせにと責めた。馬鹿だった。
そして、タクトからも連絡はきていない。
タクト、まだ俺のこと好き?なんでメールも電話もくれない?俺、全然怒ってないから、大丈夫だよ。本当は声を聞きたい。顔を見たい。笑ってる顔、しばらく見てない。俺のせい?もう一度笑って。何度でも、笑って。
ぼんやりとタクトの笑顔を思い出しながら、タクトの学校の近くまで来ていた。仕事が終わって、たまたま近くで用事を済ませたから何となく足が向いた。前にも唐突に押しかけたことがあったな。あの時は今よりずっと早い時間帯だった。
薄暗い夕暮れの中、数歩手前で学生が立ち止まった。
「……あの、藤枝さん、ですよね?」
ジャージ姿に肩から斜めに掛けたカバン。いかにも爽やかスポーツ少年。全然知らない奴なのに、知ってるような気がする。
「俺、吉川の友達の坂本っす。前にも一回だけ、吉川といるときに会ったことあるんすけど」
「あぁ、そうだっけ?」
言われてみれば、そうだったかも。
「で、なんか用?」
「あっ、いや、すみません。特にそういうんじゃないっすけど」
「じゃあサヨーナラ」
ハズレくじ引いた感じ。タクトじゃなくてサカモトに鉢合ってしまった。しかも用もないくせに呼び止められるし。
「あ、吉川と最近なんかあったすか?」
「はぁ?」
用はないって言ってたじゃん。
通り過ぎようとしたら、足止めされてしまった。
「吉川、元気なくて。でも何も話してくれないし、心配で」
「へー。さすがオトモダチ。優しーねー」
「……茶化してますか?」
「別にー?」
マジな顔して、ガンつけてんじゃねーよクソガキ。俺とタクトに何かあったところで、お前には関係ないだろうが。
「あんたがそんなヘラヘラしてっから、吉川が不安になるんじゃねーの?」
「あぁ?」
「吉川が真剣にあんたのことが好きで一生懸命なのに、これじゃ全然報われない。吉川が可哀想過ぎる」
誰が真剣じゃないせいでタクトを不安にさせたって?さすがの俺も怒っちゃうぜ坂本くん。
「そんなにアイツが可哀想って言うんなら、お前が慰めてやれば?アイツもお前のこと大好きだから喜んでくれるんじゃない?」
「んだと……」
「ま、悪いけど俺が本気でアイツを好きな以上は、オトモダチの出番はないけどな。黙って指くわえて外野から見てな」
とん、と軽く肩をノックしてやると、もう坂本は何も言わなかった。
あのな、お前に言われなくたって俺はタクトが好きで好きでしょうがないんだよ。そりゃあ、今の今までお前ごときに嫉妬したり、ツツミなんかに惑わされてちょっと頭に血が上ってたけど。
会って、ちゃんと話して、謝って、仲直りしよう。
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