Chapter.5
---------- ----------
電車を降りるタクトの背中を見て、引き留めずにはいられなかった。なんでキスなんかしちゃったかな。思わず自分の唇を撫でた。
振り向くタクトの顔を見て、無性にしたくなった。キスせずにはいられなかった。子供相手になに余裕無くしてるんだ、俺は。
サイアク、と小声で呟く。
これでタクトが二度と寄り付かなくなったりしたら……。
……したら、何だっていうんだろ。
別にいいじゃないか。ちょっと軽いノリで声掛けただけだったんだ。それだけだって。いつもの、適当なナンパと一緒でさ。
だけど。
あの黒い綺麗な瞳がこちらを向いてくれなくなったら。
時折見せる意外と幼い笑顔が見られなくなったら。
そう考えると、何故だか嫌だ。
「あーもー!なんだよ……!」
人気のない夜道で、思わずわめいた。
きっと欲求不満なだけ。誰かと一発ヤッちゃえばすぐ元の俺に戻れるさ。体空いてる奴いないかな、今からでも全然大丈夫なんだけど。相手してくれそうな奴の顔を思い浮かべていたら、ついさっきまで一緒にいたタクトの横顔が脳裏を掠めた。
なんとなく分かってる。タクトの表情の中に押し殺した寂しさみたいなものが見え隠れして、それが自分とかぶって見えてんだ。でもそんなこと、どうだっていい。都合のいい勘違いかもしれない。それに、抱き合えば寂しさなんてすぐ埋まるし。
だからはやく帰ってこい、大人の余裕よ。
[ 5/75 ]
[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]