小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.57
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お盆前の最後の夏期講習が終わった。

「いやー、お疲れ俺たち!」

坂本と篠宮と、三人でカラオケ。三人揃うと大体こうなる。

「お疲れお二人!あたしんとこは講習ないからなー」
「ずりー」

お喋りしつつ歌いつつの、のんびりしたこの時間は嫌いじゃない。
そういえば、仁とはこういうことをしたことがない。

昨日はメールしなかった。
電話は一週間位していない。
最後に会ったのは何日前だろう。

ユタカの言うとおり、言わなければ始まらないのだけれど、切り出すタイミングを掴めないでいる。時間が経てば経つほど言いづらくなるのだけれど。

携帯電話が着信で震えたのは、カラオケが盛り上がってる真っ最中だった。
ごめん、と手振りで示して電話に出る。

「もしもし」
『俺ー、仁だけどー』

仁、だ。一瞬緊張が走ったが、すぐに部屋を出る。

『…カラオケ』
「あ、うん、坂本たちと…」
『ふーん。邪魔したね』
「そんなことないよ」

心なしか、尖ったように聞こえる声。
少しの罪悪感が込み上げる。

「それで、どうしたの?」
『今日、会えないかなって思ったんだけど、会えなさそうだね』
「夜なら平気。また店で待ち合わせでいい?」
『……別に無理して来なくてもいいよ』

怒ってるのかもしれない。今までこんな風に言われたことはなかった。否定的な言葉なんて滅多に言わない仁が、来なくていいなんて。

「俺もちょうど仁に会いたいと思ってたし、絶対行くから。すぐに会いに行けなくて、ごめん」
『……分かった』

歯切れの悪い感じ。やっぱり、今すぐにでも会った方がいいのかもしれない。

「吉川ァ!次吉川の入れたやつー」
「今行く。……じゃあ、夜にね」
『ん、じゃあね』

坂本に呼ばれて、慌てて電話を切った。
この時、仁が電話の向こうで何を考えていたか知らないまま。


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