小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.53
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店に着くと、やっぱりタクトが先にいて、その隣にユウもいた。ツツミじゃなくて良かった。

いつも通り。
変わらない声と表情でタクトは隣にいる。
なのに。
なんでか遠く感じる。
得体の知れない不安が、じりじりとせり上がってくる。気のせいだと思いたくて、グラスを呷るけど、酒の味もよく分からない。


帰り道、駅まで手を繋ぐ。
繋がっているのに、離れているみたいな錯覚。嫌な予感がする。打ち消すように、握る手に力を込めた。
タクトは握り返してくれなかった。

生温い風が二人の間をすり抜ける。
もう夏の気配を含んだ空気がまとわりつく。

表面上は何も変わらないタクト。
でも拭えない違和感は確実にそこにあって、それが何か分からなくて、もどかしい。できることなら問い詰めたい。何考えてる?俺の知らないところで何を考えてる?

ちらりと見た横顔は、その心の内を読み取らせない。
漠然とした不安が、沈殿して溜まっていく。


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