Chapter.39
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現在中間テスト一日目の午後である。
教室で友達とわいわい勉強する者、図書室で静かに勉強する者、さっさと家に帰る者。各々思い思いに行動する中、巧斗は坂本の家で勉強会だ。
「古文やっちまったー!あれ引っ掛け問題かよ…」
頭を抱えてのたうちまわる坂本を、まぁまぁとなだめる。
「他の教科で挽回すれば、総合点的にはチャラだから」
「俺にできると思うか吉川よ」
「そのために今こうして勉強して詰め込むわけで」
サッカー部のエースさんはあまり勉強は得意ではない。考査期間の一週間前は、テスト週間として部活動が禁止されているが、自主練を毎日欠かさずする位、坂本はサッカー馬鹿だ。三度の飯とサッカーが好きな健康優良児。
「赤点出すと補習で部活出れないからさぁ、頼りにしてるぜマジで」
「ならさっさと問題集開いて、手動かして」
「へいへい」
坂本がようやくシャーペンを握ると、コンコンとノックの音が響いた。
「お茶いかがですか〜?」
「おっ由佳、気ィ利くじゃん」
ドアから覗いた顔は、坂本の妹。手にはグラスが二つ乗ったトレーを持っていた。
「お兄ちゃんじゃなくて、吉川さんに持ってきたんだよ」
べー、と舌を出して兄をあしらう妹。この兄妹は仲が良い。
「はい、吉川さんどうぞ」
「どうもありがとう」
冷たいお茶の入ったグラスを受け取る。ひんやりとして、手の平に心地良い。
「お茶汲みご苦労。さっさと行け。俺と吉川は勉強中なんだから」
「言われなくても出てくよっ。じゃ、吉川さん、バカ兄をよろしくお願いしまぁす」
ごゆっくり、と言って由佳は部屋のドアを閉めた。バカ兄は余計だ、と坂本がボヤいている。
「とりあえずさ、テスト出そうなとこ教えてくんない?」
「んー、と…コレとコレは絶対必要で、あとは…」
シャーペンでくるくると問題の番号を丸く囲んでいく。
「ヤマ張りは身を滅ぼすから、基本押さえたら応用もやるのがベストなんだけど」
「んな時間あればな!」
「無いよな…」
冷たいお茶を一口飲んだ。グラスから伝わる低い温度が、仁の体温を思い出させた。
テスト週間に入ってから、仁には会っていない。何度かメールがきて、それに返信する程度の接触しかない。これまで毎日会っていたわけではないけれど、一週間以上顔を見ていないのは付き合ってから初めてだった。
(どうしてるかな…)
気になってはいる。できるだけ考えないようにして、テスト勉強してきたけれど。
「吉川、コレ分からん」
「ん、どれ」
集中。明日でテストは終わり。
明日になれば、会える。
「はい、鉛筆置いてー。答案後ろから流して下さい」
教師の合図で、次々置かれる鉛筆の音と、絶望やら安堵やらの溜め息がこだまする。後ろから前の席へと答案用紙が集められてゆき、教師が回収し終えると、いよいよテストから解放された喜びに生徒達がざわめきだす。
出席番号順に座っているので、自席に戻るためさっさと筆記用具を片付けた。
ホモが自分の席に座っているのは嫌。
大体のクラスメイトがこう思っている。まぁ普通そうだろうな、と思うので普段この席に座っている小西くんがチラチラこちらを見ている中、速やかに離席する。
「吉川、お前が言ったとこ出たな!さんきゅ」
ジャージとカバンを持った坂本は、部活に行くのであろう。ウキウキという言葉がしっくりくる様子で声を掛けてきた。
「ん。部活、頑張れ」
「おー!じゃあな」
今にも掛け出しそうな坂本は、颯爽と教室を去っていく。巧斗も早く下校するべくカバンを肩に掛けた。
仁に会える。
そう考えたら自然と頬が緩んだ。
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