Chapter.38
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自宅に帰り。
勉強して。
母が帰宅し。
遅れて父も帰宅し。
家族で夕飯をとる。
時間の流れが元通りになる。
昼間までは仁と二人きりだった。
まだ鮮明に思い出せるのに、すごく時間がたったような気がする。
A型で綺麗好き。
料理ができる。
紅茶を淹れるのが上手。
自室のベッドに腰掛け、ひとつひとつ、思い出す。
睫毛が長い。
体温が低い。
朝は弱い。
少しだけ、また仁を知った。
そして、また仁を好きになった。
初めて肌を重ねた夜。
優しくて、気持ち良くて、安堵を与えてくれた仁。
未だ生乾きの傷口をそっと塞いで、恐怖を取り除いてくれた。
思い出すうちに、体が熱くなる。
「……単純」
苦笑が零れた。
熱が中心に集まる。それは徐々に首をもたげて、ここから出して欲しいと主張を始める。
ベッドに体を投げ出し、目を閉じた。浮かぶのは、もちろん仁の顔。
優しい微笑みも。
絡められる長い指も。
触れ合う低い体温も。
力強く抱きしめる腕も。
全部、好き。
下着からそろりとそれを出す。布に擦れるだけで、電流が走ったように痺れる。
「……っ」
疼くそれを手で扱いた。すぐに硬度を増して手の平を押し返してくる。
触れてくる指とか、キスした時の唇とか、絡めた舌とか。
その感覚を体が思い出し、快感が蕩け出す。
「はぁ……ッ、ん…」
溢れた先走りが絡まってぬち、と卑猥な音を立てる。
それが仁とひとつになった時を思い出させる。気遣うような優しいセックス。仁はもどかしかったかもしれないけど、大切にされているみたいで嬉しかった。
「は……ぁ、はぁ……っ」
速くなる手の動きに合わせて、呼吸も荒くなる。仁がしてくれたように手を動かしてみるけれど、やっぱり自分ですると違う。
足りない。仁がいい。
「仁……」
うわ言のように、その名を呼ぶ。
そろそろ絶頂が近い。こみ上げる射精感に、腰が揺れて。
「はぁ…、んっ……ぁッ!」
ビクビクと白い欲を手の平に吐き出した。
溜め息を吐く。昨日の今日でこんなことをするなんて、と。
ティッシュで後始末をしていると、倦怠感が全身を包んだ。
独りでするのって、こんなに虚しいものだったっけ。
「……あぁ、そうか」
二人でいることが心地良いから、余計に虚しくなるんだ。
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