小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.33
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遠い目をして、淡々と話す巧斗は、ただひたすら言葉を紡ぐという作業をしているように見えた。そのままどこかに消えてしまいそうで、少し不安になってその手を掴んでいた。
そうして紡がれた昔話は、恐らく未だに巧斗の心に深い傷となって残っているんだろう。無感情にならなければ話せないほどに。

今抱きしめている細い体は、いつもと違う匂いがする。俺と同じシャンプー使ったんだっけ、とぼんやり思った。
背中に回された手がぎゅっとTシャツを掴んで。ありがとう、と小さな声で囁いた。

「今日はもう寝ようか。嫌なこと思い出して話したから、疲れたでしょ」

頭を撫でて、思いやりの言葉を掛ける。けれど、本当は、一緒にテレビ見ながらくだらないって笑い合ったり、さも無い話をソファで延々駄弁ったり、あんなコトやそんなコトをしたかった。

「おいで」

抱きしめていた体を離して、手を引いてソファから立ち上がらせた。巧斗はそのまま黙って手を引かれてついてくる。
仕切りの向こう側、ベッドまですぐ。

「タクトはベッド使って。俺はあっちで寝るから」
「え…でも、なんか、悪いよ」
「いいの。シングルだから狭いしー。それにほら、一緒のベッドで寝たりなんかしたら、さっきみたいに襲われちゃうぞー?」

冗談めかして笑って言う。
そして手を離して、オヤスミ、と一言置いて、俺はソファで就寝。
のつもりだったのに。

「……えーと、」

立ち去ろうとする俺のTシャツの裾を、巧斗が引っ張っている。

「駄目」
「え」
「一緒に寝る。俺だけベッド使うの、申し訳ないし」
「はは、参ったねこりゃ」

真面目な顔で、そんなこと言われてもね。

「あのねー、さっき襲われて泣いたこともう忘れたわけじゃないだろ?」
「……もうしないって、信じてる」
「うん、それは嬉しいんだけど、俺の下半身チャン超元気だから。タクトと密着して寝たら、そりゃあもう元気ビンビンになると思うんだけど」
「……」
「さすがにそんな生殺し状態は辛いかな〜、なんて」

正直に話すと、みるみるうちに巧斗の表情が曇っていく。失敗したなぁ、もうちょっと上手に断れれば良かったんだけど。どうも巧斗には上手く嘘がつけない。

「わかった」
「お、さっすが〜。賢いタクトならそう言ってくれると思ってたー」
「嫌がっても、泣いても、怖いって言ってもやめないで」
「え?」

そう言って巧斗は急に服を脱ぎだした。

「ちょっ、コラコラ!なにしてんの!?」
「きっと今、怖いからってしなかったら、ずっと怖いままだと思うから……っ」

あっという間にパンツ一丁になった巧斗は、耳まで真っ赤になって下を向いている。恥ずかしがり屋のくせに、やること大胆なんだから。

「そしたらきっと、いつまでも仁を生殺しにし続けると思う……だから、今、だっ、だい、…抱いて」

抱いて。巧斗が、抱いて、って言ったよな?声がだんだん小さくなって語尾が不明瞭だったけど、絶対言ったよな?

「後悔すんなよ」

巧斗をベッドに押し倒しながら、噛み付くようにキス。
今日くらい我慢しとこうって思ったのに、そんなこと言うから、そんな顔するから。俺の脆い理性、崩壊。

「んっ………ふぁ…」

強引に舌を絡め取ってしゃぶれば、甘い吐息を漏らす巧斗。しがみついてきて、可愛い。

「…ふ…ぁ、アッ!」

舌先を甘噛みして、指先で胸の突起を転がしてやると、また啼いて。もっと啼かせたくて、突起を爪先で弄んだ。左右に倒したり、摘んだり、押し潰したり、そうする度に巧斗は可愛く啼いた。

「あ…っ、ん……はぁ…ッ」

混ざり合った唾液が巧斗の口の端から零れて。それを舌で拭って。そのまま首筋に舌を這わす。

「はあっ…!ん…ッ、やぁ…」

ビク、と背中を反らせながら身を捩る。
鎖骨あたりに吸い付き、跡を残してまた首筋へ、ちゅっちゅとキスをして。その度に巧斗は敏感に反応した。

「首弱いんだ」
「わ、かんな…ぁ」
「だってコッチもこんなになってるし」
「ひぁ…っ!」

する、と股間に手を伸ばして、主張し始めたそれをやわく揉んだ。

「いったん楽にしちゃおーか」

下着を下ろし、下半身を露わにさせる。半勃ちのそれを握り上下に扱いてやると、手の中で固さを増して。

「ん…っ、んあ…ッ…あ」
「先っちょヌルヌルしてきたよ。気持ち良いんだ?」

ぐり、と先走りが溢れる先端を指で押し潰す。

「はぁ、んっ!や、やめ……!」

快感で跳ねる腰が、いやらしい。
滑りを竿全体に纏わせて、更に扱きあげる。ビクビクと反応する様子が、視覚的に誘ってるみたいでたまらない。もっともっと、いやらしくさせたい。

「やあっ…だ、め…っ、だめ……ッ!」
「イキそう?ちゃんと言って」
「あ…ッ、ん……も、イキそ…っ…イクぅ………んん!」

ビクンと腰を揺らして、巧斗は精を吐き出した。それを受け止めた手が、白く汚され。

「よくできました」

手のそれを、べろりと舐めて見せる。恥ずかしいのか、巧斗は目を逸らした。
そんな巧斗の頬にキスを落とし、後孔に濡れた指を這わせる。

「ッ…!」

組み敷かれた体が、ぴくりと震えて強張った。過去の仕打ちを思い出したのだろうか。痛い思いをしてきたのだから、当然かもしれない。

「やっぱ、怖い?」
「……やめないで」

意外と強情。怖いって言ってもやめるなって言ってたけど、本当に大丈夫なんだろうか。

「優しくするから。でもマジで無理そうなら言って」

こく、と小さく頷くのを確認して、入口を解すように指先でくにくにと刺激した。なかなか頑なに拒まれ、そこが指を受け入れる気配はない。

「タクト、力抜いて。じゃないと余計痛いと思う」
「ん、ごめ……っ」

ごめんは要らない。だから唇で口を塞いだ。優しくついばみ、吸い付き、角度を変えて何度も口付ける。徐々に力が抜けていって、後ろも少しずつ解れてきた。
指先をくぷ、と中に入れる。

「ッあ!」
「痛い?」

キスをやめて巧斗の様子を窺うと、ふるふると首を横に振る。

「まだ……平気…」
「じゃあゆっくり慣らそうね」
「ぅん……、ぁ!はぁ…っ」

更に奥へと指を進めた。キツく締め付けてくる内壁を、押し広げるように動かす。もちろん、痛くないように。

「コッチも良くしてあげようか」

前を左手でゆるく扱く。一度射精したがまた熱を帯びて固さを増してくる。逆に後ろは少しずつ緩んでいって。

「……んっ、ああ…ッ!」

指一本をようやく呑み込みきった。今度は入口付近で一点を探し、指先を動かす。
なるべく痛くないようにやんわりと中を探っていると、ビクンと腰が跳ねた。

「ひゃ…あッ!」
「ここ、感じる?」

見つけたそこを集中的に擦る。その度に巧斗の体は反応して震える。

「あッ!んん…っ、はぁ…っ!」

先端から溢れる蜜がくちゅと音を立てた。
2ヶ所を同時に攻められて、巧斗は快感に追い詰められる。指を2本に増やして、さらに中を掻き回した。

「やっ…!あぁっ!だ、めぇ……!」
「気持ち良い?」
「んっ……!いい…よぉ…ッ」

涙を浮かべて悩ましげに眉根を寄せる巧斗。ちゃんと感じてくれているのが嬉しくて、その額にキスをする。

「そろそろ挿れても大丈夫そう…?」

手を止め、指を抜いて、巧斗をじっと見つめた。荒く呼吸をする肩が上下している。

「2人で気持ち良くなりたい」

濡れた瞳が見つめ返してきて、瞬きをふたつ。小さく首を縦に振り、その目は伏せられた。
巧斗の白い薄い胸に手の平を置いた。そこは心臓の位置。

「タクト、すごいドキドキしてるね」
「ん……だって…」
「俺も、同じ」

巧斗の手を取って、自分の心臓の位置に当てた。

「わかる?」
「うん…」
「好きだよ、タクト」
「ん…」

ちゅ、と軽く口付けた。照れて目を合わせない巧斗も、愛おしい。

「じゃあ、挿れるね」

太ももを持ち上げ、後孔がよく見える状態で、既にガチガチになっている自身を入口にあてがう。そしてゆっくりと腰を進めていく。

「ひ…ッ!ぅあ……!」
「力、抜いて」

ぎゅっと目を瞑り、全身を強張らせる巧斗の頬を撫でてやる。火照った温度がちょうど良くて心地良い。
少しずつ、俺の欲望の塊を中へ呑み込み、キツく締め付けてきて。

「ッ…う、くっ……、ん!」
「痛い?ごめんね」

もうめちゃくちゃに腰振って気持ち良くなりたい衝動を抑えて、時間をかけて徐々に奥へと押し進めた。

「………全部入ったよ」

うっすら汗を滲ませ、泣きそうな表情の巧斗を抱き寄せた。今しっかりと巧斗の後ろが俺を根元まで咥え込んでいて、繋がっている。

「じ、ん……ッ」
「うん、タクト、好きだよ」

首に腕を回してしがみついてくる巧斗が、愛おしい。よしよし、と頭を撫でてやる。

「ちょっとずつ動かすよ」

少しだけ抜いて、またゆっくり奥へ。

「いッ!んあ……あっ!」

小さな抜き差しを繰り返す。
なるべく痛い思いをさせたくない。できるだけ気持ち良くさせてあげたい。

「イイとこは、このへん…?」

入口付近に擦り付ける。さっき巧斗が感じた場所をグリ、と抉り刺激した。

「ふぁ…ッ!あぁ……っは、あん!」

また腰がビク、と跳ねて。同時に内壁もひくついて。
耳元で啼く巧斗に、締め付けられる快感に、気が狂いそうだ。

「や…っ!あッ……ん、はぁ…ッ!」
「タクトの中、すんごい気持ちいー」

射精感が湧き上がってくる。気が付けば、大きく腰をグラインドさせていた。自分の先走りで結合部分がずちゅ、と水音を立てる。

「あっ!やぁっ!あん…ッ…じ、んっ!仁!」

名前を呼んで縋る巧斗も、どうやら限界が近いらしい。腹に付くほどに反り返ったものがピクピクと揺れている。

「仁っ、あッ!イク…ぅ!じ、ん…仁!」
「ん…いいよ、一緒にイこうね…」

巧斗の細い腰を引き寄せ、激しく奥を突き上げた。

「あっ……あああッ!」
「……ッ!はぁ…っ」

びゅく、と巧斗が白いものをぶちまけ、仁も中にそれを注ぎ込んだ。ドクドクと脈打って、長く吐き出し続けた。

「はーっ……タクトぉ」

ごろりと隣に倒れ込み、抱き寄せる。

「ちょ、シーツ汚れる……」
「いい、いい。汚しなさい。替えれば済むんだから」
「あ…仁に付く…」
「いーからー」

まだ吐き出されたものも、自分達のモノもそのままで、でもそんなことより、ただ巧斗の華奢な体を抱き締めたかった。
密着すると、べっとりと腹のあたりに粘着質なものを感じる。

「あっ、ほら、気持ち悪いって」
「タクトが気持ち良くなってくれた証だから、俺は嬉しいデス」
「はぁ…」

呆れたような照れたような溜息。
おとなしく腕の中に収まり、じっとしている。

でもこれ、寝る前にシャワー浴び直しだなぁ、と乱れたシーツの上で思った。



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