小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.31
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終業式を終え、生徒は待ちわびた冬休みに心踊らせていた。教室は無邪気な子供の歓喜の声に満ち満ちていた。

今日は珍しく母が迎えに来ると言っていた。
帰りの学活が終わり、はしゃぎ回るクラスメイト達と昇降口へ流れて行くと、既に母が待っていた。驚いたのは、日中ほとんど家にいない父もそこに居たことだ。

「これから山中先生とお話してくるから、巧斗は図書室か別の教室で待っててね」

母はそう告げて、父と共に五年生の教室の方へ向かった。

言われた通り、図書室へ行って冬休みの宿題を広げた。しかし、全くやる気にならない。
両親は担任と何を話すのだろう。
この前、母に言ったあのことだろうか。
他に思い浮かばない。
そういえば、母は何度か担任と電話で話していた。もう担任の耳にも入ったのだろうか。

…先生にも、知られたんだろうか。

そう考えて、身震いした。
誰にも言わないって約束したのに、俺はその約束を守らなかった。ものすごく先生は怒るだろう。怒って、手を上げるだろう。

怖い。

急に不安になって、誰かいないかと周りを見た。けれど、誰もいない。
教室に戻ろう。そうすれば、両親も担任もいる。
宿題をしまって、ランドセルを背負い、廊下に出た。無性に怖くなって、足早に教室を目指した。職員室を過ぎて、そこを曲がれば教室が…。

「巧斗」

心臓が口から出るかと思うほどに、驚いた。
後ろから聞こえた声の主は、先生。

「ぁ……」

振り返って、足が竦んだ。しかめっ面の先生だ。
先生は無言で俺の腕を掴み、歩き出した。どこへ向かうかは何と無く見当がついた。
内履きのまま外へ出て、辿り着いたのは体育館裏のあの倉庫。着くや否や、先生の手は腕を離し、代わりにランドセルをひっ掴んで俺ごと投げ飛ばした。

「う、わっ!」

固い地面に打ち付けられ、背中や肘や膝やそこかしこが痛かった。

「約束を破ったの?巧斗」

怒った先生が、こちらを見下ろしていた。

「ごっ、ごめんなさ………」

奥歯がカチカチと震えた。怖い。怖くてたまらない。

「悪い子だ……お仕置きが必要だね」

怒っているのに、ひどく静かに先生は言葉を紡いだ。それが恐怖を増幅させた。

「服を、脱ぎなさい」

ああ、いつもの冷たい笑顔だ。と恐怖で凍てつく心のどこかで思った。

逆らってはいけない。
約束を破ったのは俺だ。
悪いのは、俺だ。
いうことを、聞かなくちゃ。

ランドセルを肩から下ろし、セーターに手を掛けた。コートを持っていたはずだったが、どこかに落としたみたいだ。パチパチ、と静電気の音をさせてセーターを脱いだ。中に着ていた長袖も脱いだ。少し躊躇したのは、寒かったからだけではなかった。
まだ羞恥心が残っているんだ、と薄ぼんやりと思った。壊れかけた心は、何故だか妙な冷静さを持って、どこか遠くで自分を見ているみたいだった。

「下も脱ぐんだよ」
「はい…」

ひんやりと冬の空気が肌にまとわりついた。刺さるような冷たさだった。それでも、我慢してズボンを下ろした。どうせ下着も脱げと言われるので、一緒に。
一糸纏わぬ姿で、先生の前に立った。
きっと先生の笑顔は冬の空気に似ている。刺さるような冷たさ。その痛みが骨の髄まで染みるんだ。

「巧斗、先生は悲しいよ」

先生の腕が、その逞しい胸に俺を抱き寄せた。

「信じていたのに、二人の秘密をバラされたんだから」

ごめんなさい。

「先生はもう学校に居られなくなってしまうよ」

ごめんなさい。
ごめんなさい。

「きっと先生を辞めなくてはならなくなる」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

「そしたら巧斗にも会えなくなるし、寂しくなるなぁ」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

「でも、全部、全部、巧斗のせいだよ?」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

「…ごめんなさい…」

先生の腕の中で、ぽつりと零した。
俺が悪いから。俺がいいこじゃなかったから。

「……壁に手をついて、こちらに背中を向けなさい」

腕から解放された。言われるままに、冷え切った壁に手をついた。

「巧斗のせいで、先生はこんなになってしまうんだ」

そう言って先生は、俺の腰を掴んでグイと引き寄せた。そうして固くなった股間のものをわざと尻に押し付けた。

「だから、ちゃあんと巧斗がこれをどうにかしなくてはいけない。分かるね?」
「……はい」
「いいこだ」

背後に聞こえた衣擦れの音。次の瞬間、痛みが全身を貫いた。

「うああぁーッ!!」

全く慣らされていない後ろの穴に、先生の肉棒が突き立てられた。無慈悲に奥まで侵入してくるそれに、痛み以外の何も感じられなかった。

「痛いかい?でも先生の心はもっと痛い。お前に裏切られたんだから」
「んく…ッ、あぅ…!」

ガツガツと奥を突きながら、先生は俺を責めた。

「もう顔も見たくない」
「あぅ…っ、ああ"!」

痛くて、痛くて、目の前がチカチカした。

そこから先は、よく覚えていない。
気がついた時には家にいた。両親は担任に、俺が先生から受けた暴力について話をしたそうだ。後日、校長も加えて改めて話をするということで、担任との面談が終わって図書室に行ったが、俺の姿はなく、校内中をほかの先生達と探し回ったらしい。そして、体育館裏の倉庫で全裸の状態で倒れている俺を発見した。


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