小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.29
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小学5年生の時、体育の先生が新しい人に変わった。背が高くて、逞しくて、明朗快活といった感じの先生だった。生徒全員に優しくて、授業中失敗があっても無闇に怒鳴りつけたりせず、励ましたりしてくれる。そんな人だった。
俺は運動が苦手で、体育は好きじゃなかったけれど、先生が頑張れって言ってくれるから頑張れた。先生を、良い先生として慕うことに何の抵抗もなかった。みんなもそうだったんじゃないかと思う。
優しくてかっこいい、絵に描いたように完璧な先生。

二学期のことだった。
夏休みが終わっても、まだ暑さが残る時期。
その日は体育の当番で、授業で使う道具を準備したり片付けるのが与えられた仕事だった。二人一組で順番に回ってくるけれど、その日はもう一人の当番の子が休みだったので、一人でその仕事をした。ボールとか三角コーンなんかを片付けるだけだったから、一人でも十分だった。

「えらいぞ巧斗。一人で頑張ったな」

それでも先生は褒めてくれた。嬉しくて、笑った。

「そうだ。この倉庫だいぶ散らかってるから片付けようと思ってたんだが、巧斗に手伝いを頼もうかな?」
「はい、手伝います!」

頼りにされたのがまた嬉しくて、迷いなく返事をした。

「よしッ。じゃあ放課後また倉庫に来てくれ」

先生の大きな手が、肩をポンと叩いた。

放課後。
蝉がうるさく鳴いていた。
部活動のない日なので、倉庫は誰も使わない。片付けにはちょうど良い日だった。
先生と二人で、埃を払い、落ちているボールを拾い、道具を整頓した。扉を開放して換気もした。綺麗になった倉庫と満足げな先生を見て、達成感があった。

「うん、綺麗に片付いた。巧斗が手伝ってくれたお陰だな!」

先生が笑って「ありがとう」と言ってくれた。俺、大好きな先生の役に立てたんだ。それがとても嬉しかった。

「……巧斗はいいこだな」

そう言いながら、先生が後ろ手に倉庫の扉を閉めた。ガチャリ、と鍵のかかる音もした。

「いいこだから、先生の言うこと聞けるね?」

目の前に立つ先生の瞳が怪しく光った。するりと頬を撫でた大きい手。その顔はニッコリと笑っているのに、何故か怖く感じた。

「せんせ……?」
「巧斗、後ろを向くんだ」

何故そうするのか分からないまま、黙って言われた通りにした。なんだかいつもと違う様子の先生に、戸惑った。

「そう、それでいい」
「ッ!」

両肩に置かれた先生の手に、ビクッと震えた。その手がゆっくりと肩から二の腕へ滑り、肘のあたりで止まった。ぎゅ、と自分の拳を握りしめ、硬直した体。すぐ後ろに先生がいて。頭の後ろの方で先生の呼吸を感じた。

「大きな声を出しちゃ、いけないよ?」
「ひ……ッ」

頭上から響く先生の声。服の上から体をまさぐる先生の手。
言われるまでもなく、緊張と困惑で声など出なかった。底知れぬ不安がそこらじゅうに広がって、体の自由を奪った。
俺が拒絶しないのをいいことに、先生の手がおもむろに下着の中へ侵入してきた。

「やっ、やだ…!」

不快感から身を捩り抵抗したが、大人の前では無力に等しい。それでも何とか逃げ出そうともがいた。

「い、やだッ、やだぁ!」
「巧斗はいいこなんだから、ちゃんと言うこと聞かないと、な?」
「あぐ…ッ!」

まず顔に痛みが走り、続いて背中に衝撃があった。どうやら地面に押し倒されたらしかった。
俺に跨り、地面に押さえつける先生の顔には、相変わらず笑みが貼り付いていた。冷たい、薄っぺらい笑顔。ただ恐怖心を煽るだけの、笑顔。

「大きな声を出しちゃいけないって言ったのに、駄目じゃないか巧斗」

俺のポケットからはみ出したハンカチを、先生は口に詰め込んだ。

「んん……ッ!んーっ!!」

息ができないわけじゃないけれど、苦しかった。それ以上に、怖かった。
これから何が起こる?何をされる?
嫌な予感しかしなかった。

「大丈夫。イイコトをしようね、巧斗」
「んぅっ!んんーっ!」

言葉にならない叫びをあげても、逃げようとじたばたしても、無駄な足掻きで。むしろ先生の感情を逆撫でしただけだった。

「……言うこと聞かない悪い子は、お仕置きだ」
「!!」

のしかかった先生が、髪を掴んで頬を叩いた。バシッ、と乾いた音が倉庫内に響いた。俺が悲鳴さえあげなくなるまで、先生は何度も何度も張り倒した。

「………」
「巧斗、お前の綺麗な顔を傷付けるのは先生も悲しいんだ。だから、ちゃんといいこにしているんだよ?」
「………」

ぼろ、と涙が流れ落ちた。ヒリヒリと頬に染みて、痛む頬が余計に痛かった。もう抵抗しようなんて気は起きなかった。殴られるのが怖くて。
あとはされるがままに、体を貪られるだけだった。
先生は俺の服を剥ぎ取り、悪戯に舌を這わせて全身を味わった。

「……んぅ…ッふ……んん!」

ぞわぞわと体中を巡る異様な感覚。唾液に塗れたハンカチを噛み締め、小さく呻いた。

「んんッ!!」

その舌はそのまま、まだ幼い性器を弄り、弄んだ。爪先まで力が入って、ざり、と地面に指を突き立てた。ツ、と唾液が尻を伝って落ちて。
気持ち良くて、気持ち悪い。

「巧斗のここ、綺麗だよ」
「んぅっ!!」

先生の指が、性を知らない後孔に侵入してきた。違和感と圧迫感しか感じられなかった。気持ち悪い。
そんなことはお構い無しに、唾液と共に中を掻き回す指。ぐちぐちと内壁を擦られて、不快感に身震いした。
それでも後孔は慣らされて、いつの間にか二本の指を受け入れていた。

「巧斗、先生もう我慢できないよ」

ズル、と指を引き抜き、先生がズボンを下ろした。露わになった下半身にそそり立つものを見て、怯えの色を隠せなかった。

「!!」

腰を掴まれ、後孔に当てがわれた熱いもの。グ、と挿し込まれ、指とは比べ物にならない痛みと圧迫感が襲った。

痛い、痛い、痛い。
怖い、怖い、怖い。

涙がまたぼろぼろと零れた。
それでも、先生は奥深くまで進んできた。無理矢理捻じ込まれ、体の真ん中を引き裂かれるような激しい痛みに気が遠のいた。

「痛いね、可哀想に。でもすぐ良くなるよ」
「んッ………んぅ……う、ッ……」

俺の頬を手で包みながら、小さく抜き差しを繰り返して先生が言った。汗がポタと顔に落ちてきた。

「巧斗の中は気持ち良いね」

いいこだ、とうっとりした表情の先生が俺を見下ろしていた。徐々に腰の動きが大きく速くなっていって。ちっとも良くならない痛みで、頭の芯がグラグラした。

「はぁ……はぁ……はぁ…ッ」
「ん…っ…んぅ……んんっ」

奥を突かれる度に、先生は息を吐き、俺はくぐもった声を漏らした。
ポタリ、ポタリ。先生の汗が顔や胸元に落ちてきて。

「はぁ……巧斗…、いいこだ…ッ」

更に強く腰を打ちつけられ、奥を突かれ、もう気を失いかけていたその時。びくびくと中のものが震え、欲を吐き出した。
少し射精の余韻を楽しんでから、ずるりと先生が萎えた自身を引き抜いた。遅れてドロッとした白い液体が流れ出てきた。

「よく頑張ったな、巧斗」

微笑んだ先生が、口の中のハンカチを取り出して、口の端から溢れた唾液を指で拭ってくれた。ようやくまともに呼吸ができるようになり、ひゅう、と喉が変な音をたてた。

ズボンを直した先生は、俺を抱き起こし、服を着させて、乱れた髪を直した。
優しく頭を撫でる先生はいつもの大好きな先生で、さっきまでとは別人のようだった。

「これは、二人だけの秘密だよ。誰にも言っちゃあいけない」

穏やかな声で、先生が言った。俺は虚ろな目で先生を見ていた。

「巧斗はいいこだから、約束を守れるね?」
「……はい」

優しくて、怖くて、大好きな、怖い、先生。
誰にも言えない、秘密ができた。


一応、何をされたかはなんとなく分かっていた。乏しい知識だが、それは普通大人の男女がするものだと認識していた。
でも俺は男で、先生も男だ。
なんで俺なんだろう。もしかして、俺がいいこじゃないから、こんなことをされたのだろうか。俺が悪いから…?

それ以来、先生は俺が当番の日には必ず倉庫に呼んだ。時々、当番でない日も呼ばれた。俺はただおとなしく、従順に先生を受け入れた。

だって、悪いのはきっと俺だから。

先生が褒めてくれるように、許してくれるように。それだけを祈りながら。
何度も先生を後ろで受け入れ、先生が望むなら口で奉仕もした。本当は嫌で、苦痛で仕方なかったけれど、そうするしかなかった。
行為の最中は乱暴にされることもあった。どうしても嫌で拒絶したことがあったが、悪い子だと罵られ叩かれるので、それから二度としなかった。

行為の時間以外は、先生はいつもの優しくて、良い先生だった。
だから、余計に。
悪いのは自分で。
もっとちゃんといいこにしていれば。
先生は許してくれるはずなんだ。
そんな細い希望に縋り付いていた。


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