Chapter.28
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どれくらい、仁に抱き締められていたんだろう。
「……もう、大丈夫」
ゆっくりと体を離す。涙は止まった。でも、今自分は酷い顔をしているんだろう。頭が鈍い痛みで重い。
「ちょっと待ってて」
頭にぽん、と手を置いて仁が立ち上がる。離れてしまった体温が少し残念だったけれど、そのままソファに沈み込んだ。
仁はキッチンでお湯を沸かし、手早くかつ丁寧に紅茶を淹れた。二人分のカップを持って隣にまた座り、ひとつを手渡してくれる。ハーブの穏やかな香りが鼻をくすぐった。
「落ち着いた?」
「ん」
小さく頷いてみせると、仁が微笑んだ。それはまだどこか不安の混ざった笑みで。
「ごめん……」
そんな顔にさせているのは、自分のせいで。申し訳なくて俯いた。カップの水面に自分の顔が歪に映る。
「泣いた理由、聞いてもいい?」
ひと口紅茶を飲んだ仁。自分もカップに口をつけた。温かい液体が口腔から喉へ下りていく。
「仁は、悪くないんだ」
重い口を開く。
気が進まない。できることなら蓋をして鍵を掛けて、記憶の奥底に深く沈めてしまいたい。
「悪いのは、俺だったから」
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