小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.2
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「吉川!おはよー。」

名前を呼ぶ明るい声に振り返れば、下足箱の前で声を掛けてきたのは坂本だった。

「おはよ。」

ゲイと知りながら友達でいてくれる、唯一のクラスメイト。そのまま教室まで話しながら向かう。

「春休みなんかあっという間だよなー。吉川はなんかイイコトなかったの?」

俺は彼女とディズニー行ったと上機嫌な様子で話す坂本。新学年の始まりともあってか、すっかり浮かれている。

「いいことっていうか……うん、あったはあった、かな。」

初めて冒険した夜を思い出す。声を掛けてきた、目立つ容姿の青年。まさか、あんな人に話し掛けられるなんて思ってもいなかったので、心底驚いたのだ。

「えっえっ、ちょっとそこんところ詳しく!」

 興味津々といった様子で坂本はタクトの顔を覗き込む。教室は既に目の前だ。
 あとでね、とお茶を濁して着席した。さて、どう話したら良いものか。まだ新しい記憶を順に辿りながら、授業は上の空だった。





「はーそんなことがねー。まさかお前がそんなとこ行くとはね!この不良〜。」

昼休み、屋上にて藤枝仁との出会いを坂本に話した。地元から少し離れた場所にある同性愛者が集まる界隈へ足を運んだこと、そこで迷っていたらある店のマスターに拾われたこと、そして彼に声を掛けられたこと。

「でも、なんでいきなり?」
「単なる思いつき。興味本位っていうか、退屈しのぎっていうか……。」

ひとりで行くのは少し勇気が必要だったが、ぼっち行動なんか慣れている。それでも藤枝に話し掛けられホッとしたのはなぜだろう。

「でも未成年ってばれたらヤバかったんでないの?飲んだんだろ?」
「いや、それはもう、すぐバレたし飲まなかったし。」

 マスターに歳を聞かれ、ついうっかり16歳と正直に答えた自分が間抜けだったのだ。しかしマスターはせっかく来てくれたので、と言ってノンアルコールを提供してくれた。追い返されなくて良かった。

「それで?」
「え?」
「だーかーらー、そっから進展があったのかって。」
「いや、特には……。」
「えっアドレス交換しといて!?なんも?」

 なんだーと、坂本はちょっとガッカリしたようだった。
 そんな折に、巧斗の携帯が着信を告げた。

「あ、メール……。」

 藤枝仁、その人だった。


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