小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.25
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5月の空は綺麗に晴れ渡っていた。
少し暑いくらいの日差しに目を細めながら、巧斗は図書館の前まで来ていた。腕時計に目を落とすと、13時55分。一番暑い時間帯に差し掛かろうとしていた。

仁との約束の日。
駅の近くに図書館があることを前日に知った巧斗は、待ち合わせまでそこで時間を潰すことにした。肩に提げるカバンには勉強道具。連休が明けて少しすれば、中間テストが待っている。
館内に入れば、室内は快適な温度に保たれていて気持ち良かった。来訪者は皆思い思いに読書を楽しんだり、勉強に取り組んだりしていた。
巧斗は机が隣と仕切られている、勉強用スペースの席を選んだ。周りは自分と同じように宿題をしたり、調べ物をしたりする学生が数人いる。
巧斗も早速問題集を広げ、勉強に取りかかったのだった。


「あ、もうこんな時間……」

だいぶ集中していたらしい。腕時計の針は17時58分を差していた。
もうすぐ仁の仕事も終わりだ。
そう考えると、なんだか急にそわそわして、落ち着かない。問題集やノートを片付けながら、マナーモードにした携帯電話をチラと気にする。いやまだ早い。なんでこんなに気が急くのか。せっかちにも程がある。
……女々しい。
ちょっと自分に嫌気が差した。はぁ、と軽く溜息を吐く。
不意に、手にした携帯がブルル、と震えた。着信表示は、藤枝仁。カバンを掴み、慌てて外へ出る。

「も、もしもし」
『おれー、仁だけどー。今どこ?』
「図書館にい」

いるんだけど、という語尾をぶった切って仁が喋る。

『そこ居て。10分位で行けるからー』
「分かった」

んじゃ、とあっという間に電話が切れた。ぶっきらぼうではないけど、すごく忙しない感じ。
仁も気が早いとか、せっかちになるとかしてるのかな。
同じだったら安心するし、嬉しいかもしれない。
とりあえず、ここで、仁を待つ。




本当に10分位で来た仁は、巧斗と目が合うとふわ、と笑って足早に距離を詰めてきた。

「お待たせ」
「ぴったり10分で来た」
「うん。ちょー早歩き」

ふ、と巧斗が吹き出して二人であはは、と笑い合った。

「じゃー行こうか」
「ん」

二人並んで、歩き出す。


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