Chapter.23
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水曜日は店の定休日。
遅めに起きた仁はテレビをつけてボーッと眺めていた。
「つまんねー……」
平日の昼間だから、昼ドラとかワイドショーばかりだ。
携帯を手に取り、電話の発信履歴を開いて一番上の名前を見る。
「あ、学校か」
リダイヤルしようとして、はたと気付き手を止めた。
そこで、一つの考えが脳内をよぎる。時計をみると午後3時になろうとしているところだった。
うん、そうしよう。
そうと決まれば、と仁は身支度を整え始めた。
仁は巧斗の通う高校の前まで来ていた。
夕方の4時。生徒が下校していく時間だろう。校舎の方から校門へ、続々と生徒が流れてくる。
校門の側で待つことにした仁は、ポケットに手を突っ込み生徒の群れを何とは無しに眺めていた。何人かの生徒はこちらに目を留め、さらにその内の何人かの女子がヒソヒソと言葉を交わす。もちろん賛辞だ。ヤバいとかかっこいーとか、その程度の。
女子には興味無いんだよねー。無論悪い気はしないのだが。
そうして待つ事15分程。
巧斗を見つけるまでに思った程は時間はかからなかった。
二人並んで歩いてきた生徒の、そのうちの片方。
「タクトー」
「えっ、仁……!?」
何でここに、と驚きを隠せない巧斗。思った通りの戸惑いっぷりに、仁は内心ほくそ笑む。
「トモダチ?」
「え、あ、うん……」
「ども」
坂本ッス、と名乗り軽く会釈してみせた彼は、いかにも運動神経の良さそうな爽やか君だ。
「俺、ルリと約束あるから行くわ」
「ん。また明日」
「おう」
なかなかサカモト君は空気の読める子らしい。早々にその場から立ち去っていった。
「……なんで来たの?」
坂本の背中が消えないうちに、巧斗は仁の方へ向き直る。
「タクトの制服姿が見たかったからー」
「それだけでわざわざ……?」
その表情が、戸惑いから呆れに変わった。
「あと、タクトの顔見たかった」
「あ、そう……」
左手で口元を隠す。照れた巧斗は視線を外してしまった。本当に、よく照れるねぇ。こっちまで照れそう。
「とっ、とりあえず場所変えよう。仁、目立つから」
確かに周囲の視線がチクチク刺さってくるのは感じ取れる。
「じゃー帰ろう?」
「ん」
そうして二人は歩き始めた。
駅へ向かう道には、巧斗と同じ制服の生徒が少なからずいた。その目を気にしているのか、あるいは単に照れているのか、巧斗は隣から一歩下がって歩く。右斜め後ろに巧斗の気配を感じながら、少しゆっくり歩いた。
「タクト、いつもと雰囲気違う」
「あぁ、眼鏡だし髪とか違うから……」
「前髪で顔見えない」
「見えるよ」
いつもは分けてる前髪が、今はバサッとおりている。目にかかる位の長さでさらさら揺れていた。
「もーすぐ連休がくるね」
5月の大型連休、言わずと知れたゴールデンウィークである。
「タクト、家族で予定とかある?」
「別に……。母さんは部活の顧問で、遠征だとかでいないし、母さんいないと父さんも家に帰って来ないから」
つまり、家には誰もいなくて予定も無し、ということか。
「じゃあさ、ウチこない?」
「え?」
後ろを見やれば、きょとんとした顔の巧斗。
「人目気にしながら出掛けるより、ウチでまったりするほうがいいじゃん?」
「まぁ、そうだけど……」
「じゃー決まり!」
夜にあの店で会うことばかりだったから、昼間から二人で会うのは初めてになる。なんだか新鮮で、嬉しい。
「おうちデートだ」
「浮かれ過ぎ」
からかうように巧斗に笑いかけると、つんとしてそっぽを向いた。
「それ、照れ隠しだよね?」
「違う」
馬鹿、とグーで二の腕をポカッと叩かれた。
「かーあいー」
「うるさい」
ポカスカと、巧斗は攻撃の手を緩めない。痛くないし、むしろ可愛いから許す。
店長に言って仕事は休みをもらおう。巧斗を一日独り占めできるのだから。
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