Chapter.22
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昼休み。
屋上で昼食をとる。天気が良くて坂本も一緒だ。先日奢ってもらう約束をしたので、早速購買で昼ご飯を奢ってもらった。
「マジでルリなんか気に障ること言わなかった?」
「むしろ励ましてもらった」
「スマン、ついでに聞くけどその後どうなの?」
なんだかんだで坂本も気になるらしい。おにぎりをかじりながら、割とストレートに聞いてきた。
「あぁ…まぁ、結局付き合うことになった…」
言葉に出すと余計に恥かしいものだ。誤魔化すようにペットボトルのお茶を飲んだ。
「へぇ〜良かったな!あ、ルリには言わないでおくから……」
また変につつくから、と坂本は少し申し訳なさそうに言った。そして弁当のフタを開け、おかずをつまみ出す。
「いや、言っといて。篠宮のお陰でもあるから」
「そお?」
と唐揚げをもぐもぐする坂本。あんまからかうなって言っとく、と付け足した。
そんなに気を遣わなくてもいいのに、と巧斗は思っている。自分がゲイなのはどうしようもないし、篠宮は篠宮で嫌悪したり気持ち悪がっているわけでもなく、ただ事実を受け入れた上で話をしてくれる。そのへんは坂本と同じだ。
「よっしゃ午後は体育!」
空っぽになった弁当を片付けながら、坂本は張り切っている。
「体育か……」
一方で巧斗は憂鬱な気分になる。体育の授業は嫌いだ。運動は得意でないし、それに思い出したくないことがあるから。
小学校の体育館裏倉庫。うるさい蝉の鳴き声。蒸し返す暑さ。肌に落ちてくる汗。自分のではない手。貼り付いた笑み。恐怖。違和感。涙。痛み。痛い。痛い。イタイ……。
「吉川行こうぜー」
坂本の声で現実に引き戻された。坂本はもう屋上のドアを半分開けて、こちらを振り返っている。
「ん、あぁ……」
胸がムカムカする。鉛でも流し込んだみたいにズシリと重い。
「顔色悪いぞ?大丈夫か?」
巧斗はよろよろと歩き出した。大丈夫、大丈夫。自分に言い聞かせる。
「体育、休んだ方がいいんじゃね?」
「いい。何でもないから」
坂本は本当に優しい。自分の友達にはもったいない位の、いい奴。
無理すんなよ、と言って肩を叩いた坂本の手。あぁ平気だよ。
体に刻み込まれたあの痛みは、まだこびりついて離れない。
忘れたいのに、それを許してくれない。
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