小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.21
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月曜日というのは本当に憂鬱だ。楽しかった休日が終わって、学校やら会社やらに行かなくてはならない。
ところが、今日の仁に限って言えば、そんなことは微塵も感じない。徒歩で通勤する間に鼻歌を歌ってしまうくらいにはゴキゲンだった。

「おはよーございまーす」

洋菓子の甘い匂いが立ち込める店内。おはよう、と微笑み返したのは店長の奥さんの千絵理さんだった。ちなみに店長はチェリーと呼んでいる(聞いているこっちが恥ずかしいが、もう慣れた)。おっとりとした、優しい女性だ。
スタッフオンリーと記されたドアを開け、ロッカールーム兼休憩室に行くと、先に来ていた桃子がいた。

「おはようございまーす」
「おはよー」

仁も早速支度を始める。伸びた髪を後ろで結わえ、店のエプロンを着ける。

「………」

桃子がじーっとこちらを見ていた。

「なに、桃ちゃん。顔に何か付いてる?」

二人はドアを開け店内へ移動する。これから手分けして開店準備だ。

「いえ、ついこの前まで落ち込んでたのに、今日はすごく元気そうというか」
「うん?まぁそーかな」

手を洗いに奥のキッチンへ行くと、店長が手際良くケーキを仕上げていっていた。

「もう失恋から立ち直ったのか。はやいなぁ藤枝」

生クリームを絞りながら、店長が茶々をいれてきた。

「立ち直ったっつーか、失恋が失恋じゃなかった的な」
「「えっ?」」
「逆転ホームランでサヨナラ勝ちみたいな」
「「えーっ!」」

声揃えて驚かなくてもいいじゃないか。いや店長は絶対に、フラれたんじゃないのか残念、の意味での「えー」だ。

「やっぱり藤枝さんはモテるんですね。結局おモテになるんですね。へー」
「桃ちゃん、目が。目が怖いよ」

完成したケーキたちを並べるトレイを持って、桃子は遠い目をしている。

「さて、おしゃべりもそこそこにして、仕事してね皆さん」

ちょっと困った笑みを浮かべ、千絵理さんが声を掛けた。はーい、と三人は各々のやるべき仕事に取り掛かる。

La Vie en Rose.
この店の名前。
薔薇色の人生、と言えば大袈裟かもしれないが、今は幸せ。


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