Chapter.20
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どうにか告白をし、成就した想い。安堵と充足感で満たされた帰り道。
初夏の一歩手前の薫りを含んだ春風が、さわさわと心地良く吹いている。
そんな夜道を手を繋いで歩いていた。駅までの道程は、夜遅いといえども土曜日、決して人通りが少ないわけではなかった。しかしこの辺りは“そういう人たち”が集まる界隈なので、全くと言っていいほど二人は目立たない。
「電車乗ったら、離して……。」
そういう約束で、店を出てから仁が絡めてきた手を受け入れた。
機嫌の良い横顔。アルコールの匂い。少し冷たい手。
俺の、好きな人。
電車に乗ると、約束通り手を離して仁は座った。
でも、混んでいる訳ではないのに、ぴったり隣に座っている。肩や膝がくっつく。少し恥ずかしいけれど、嫌ではないからこのままでいい。
「タクトは学校どこだっけー?」
「H高。」
「じゃー電車通学だ。」
「うん。」
他愛のない会話をぽつぽつと。でも今はそれが大切な時間に思えた。
「タクトの制服姿見たいなー。ブレザー?学ラン?」
「ブレザー。見ても、何も面白くないよ。」
「でも見たい。今度着て来て。」
「制服で夜出歩くのはまずいと思うよ。」
すぐ補導されそうだ。
ちぇー、と残念そうに仁は呟いた。
アナウンスが到着する駅を知らせる。降りる駅だ。
「もう着いたし……はやい。」
車輪のブレーキの音が、恨めしげな仁を嘲笑うかのように音を響かせた。
「じゃあ、また。」
ホームに降りて、車内に残った仁の方を向く。
「帰んないで。」
寂しげな表情で、仁はそこにいる。そんな顔をしないで。本当に帰れなくなるから。
「ごめん……。」
謝ることしかできないのが、もどかしい。
すると、不意に甘い香りが鼻を掠めた。
「……!」
キス、と分かったのはその一瞬あと。
「オヤスミ。」
「ん、おやすみ。」
閉まるドア。ガラスの向こうの仁。まだ唇の感触が残っている。
見えなくなるまで電車を見送り、改札を出た。
いつも一人で歩いている道。でも、いつもと違って少し寂しいのは、仁のせい。
さっきまで二つだったのに、と街灯に照らされ浮かぶ自分の影を見て思う。意外と寂しく感じた。
その寂しさも、彼を想うが故のものならば愛おしくさえある。
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