Chapter.18
---------- ----------
携帯の画面は着信履歴を表示してそのまま。ボタンを押せばリダイヤルできるけれど、なかなか押せずにいた。
そんな土曜日の夜。
たぶん仕事は終わっているはず。電話を掛ければ出てくれるだろう。もし繋がらなかったら、また掛け直せばいい。別に今日が駄目でも別の日にすればいい。
すぅ、と深く息を吸い込み、吐き出す。
よし電話しよう。
思い切ってボタンを押下した。
呼び出し音が7回鳴って、
『もしもし。』
仁の声が聞こえた。安堵したのも束の間、すぐにまた緊張が襲ってくる。
「今、電話大丈夫?」
『ん。何?』
「急でごめん、これから会いたいんだけど……いい?」
声が震えそうなのを必死に堪えた。
『……いいよ。今どこ?行くよ』
「こないだの、あの公園……。そこで待ってる。」
『分かった。40、いや30分で行く』
じゃあ、と言って電話が切れた。
ふぅ…と思わず溜息が出た。手に汗をかいている。とりあえず、最初の関門はクリアした。
あとは、自分の気持ちを伝えるだけ。
…たぶん一番難しい。
ベンチに座って待ち続ける。仁が来るまで落ち着かないまま。そわそわして、何度も時計に目を落とす。一分一秒がいつもよりゆっくり進んでいるような錯覚。
(本当に来てくれるのかな)
そんな不安も拭い去れない。
どんどん鼓動は速まっていく。
とうとう時計の針が30分経過したことを示した。と同時に、ざりざりと地面を踏む足音が聞こえた。
次第に大きくなるその足音の方を向けば、金色の髪を揺らしてその人が姿を現す。
「お待たせ」
巧斗の隣に少し距離をあけて、ポケットに手を突っ込んだままの仁は座った。
「急に呼び出して、ごめん」
うん、とだけ仁は言った。その視線は組んだ自らの足の先を見つめている。
「……前に、分からないって言った答えが、ようやく、分かって…」
速すぎる鼓動のせいでうまく話せない。聞こえてしまうんじゃないかというくらいうるさい、心臓の音。
「仁は…もしかして本気じゃないかもしれないって、正直、思ったりもする…んだけど、でも…」
たどたどしく言葉を紡ぐ。汗が背中を伝うのを感じた。苦しい。熱い。それでも伝えないと。
「俺は……その…俺も……」
ぐっと握りしめた拳は汗ばんでいる。声が上手く出ない。どうやって出せばいいんだっけ。
「お、れも………す、っ……好きだよ、仁のこと…っ」
言った。言えた。良かった。
その瞬間、がば、と視界が無くなった。
「………ッ!」
仁に抱きしめられていた。それは少し息苦しいくらいに力強くて。
「仁……っ?離して……」
「離さない」
更に力が込められた腕。
耳の上にかかる吐息がくすぐったい。
「俺が本気だって、分かってくれるまで離さない」
聞こえてくる心音はやけに速くて。あぁこの人も自分と同じなんだ。そう思って嬉しくなった。
そっとその背中に自分の腕をまわして、抱きしめ返す。
仁の顔が離れ、視線がぶつかり合った。その熱っぽい視線から目を逸らすことのできないまま、仁の顔がゆっくり近づいてきて。
「ん…っ」
重なる唇。
角度を変え、ついばむように何度も重ね合う。
「ねぇ…タクト」
濡れた唇を離して、仁が言う。
「俺と付き合って」
「…うん」
巧斗はこくり、と目を伏せ頷いた。
それを見て優しく微笑む仁が、本当に好きだと思えた。
[ 18/75 ]
[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]