小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.14
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 巧斗の背中が黒い扉の外へ消えた。

「ちょっとぉ、なにしてんの、早く追いかける!」
「え?何?何で?」
「二人っきりのチャンス!」
「いやぁ……。」

 二人っきりになったところで、俺にどうしろっていう。

「本命なんでしょ?反応窺って、大人気ないったら。あからさまに動揺してたわよぉ。」

 そうだけど。おっしゃる通り様子見しちゃったけど。

「だからって今行かなくても。」
「いーからっ。当たって砕けてきなさい!」
「砕けるのかよ……。」

 ユウの剣幕に押され、渋々立ち上がった。


 その背中はすぐに見つけることができた。

「タクト、」

 肩を掴んで呼び止める。振り返ったその顔は、瞳が大きく見開かれて、まさにビックリした表情。

「え、どうして……。」
「あー、その。」

 しまった。何も考えてない。馬鹿か俺は。

「俺も帰るから、一緒に行こう。」

 一瞬、困った顔をした。でも断る理由もないんだろう、こくりと頷く。
 そのまま並んで歩き出した。

 駅に着くまで無言。
 巧斗が困惑している様子が見て取れる。そして終始目を合わせてくれない。
 意気地無しィ、とユウの一言が脳裏に浮かんだ。誰が意気地無しだよ。焚きつけやがって。

「まだ、電車まで時間あるね。」

 電光掲示板を見るに、あと10分ほど。

「ちょっとだけ、いい?」

 返事は待たない。え?と巧斗が言ったのを聞きながら、その腕を取って早足に歩き出した。

「ちょ、どこに……。」

 着いたのは駅裏の公園。夜遅くなると誰も居ない。
 無人のブランコ。
 無人のベンチ。
 無人の砂場。
 いるのは俺と、巧斗だけ。

「今日さ、」

 足を止めて。でも手は離さずに。

「あんま目合わせてくれなかったね。」

 そう言って巧斗の方を向く。ようやくまともにその顔を見れた気がする。街灯に照らされて白く見える、綺麗な顔。

「それは……。」

 また、そうやってすぐ視線を下に落とすんだ。

「タクト。こっち見て。」

 ゆっくりと視線をこちらに戻してくる。戸惑っている。そんな顔さえ。

「好きだよ、タクト。」
「……。」

 綺麗な黒目が戸惑いがちに揺れた。
 ほんの数秒の間が、とても長く感じられる。

「……ごめん。どう答えたらいいのか、分からない。」

 分からない、だってさ。
 それって、別に俺のこと好きじゃないからなんじゃないかな。

「そ。分かんないなら、しょうがないな。」

 細いその腕を離した。これはもう、玉砕にカウントするってことでいいかな?
 本当に当たって砕けたじゃん。あーあ、電車の中気まずいな。
 そんなことを考えながら、駅までの道を引き返した。




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