小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.12
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「巧斗くんなら今日は来てませんよ?」
「えっ、まるで俺がタクト目当てで来てるように聞こえる!」

 馴染みの店。いつもと同じ酒を飲みにふらっとやって来たのだ。

「違うんですか?」
「マスターに会いにきたんだよ。」

 それはどうも、とにっこりマスター。ユタカが無言でグラスを置いていく。

「あ、でもこの間来てましたよ。」
「え?一人?」
「ユウと仲良しになっていました。」

 なんでユウ?と怪訝な顔をしていると、

「仲良くなっちゃった!」
「うわっ、ビックリさすなって……!」

 噂をすれば何とやらだ。後ろから背中にのしかかってきたのは小柄で華奢な軽い体。

「今日は来てないよ?タクトくん」

 ユウはそのまま隣に着席する。

「いーの。今日はユウに会いにきたのー。」

 なんでどいつもこいつもタクト目当てで来てるように言うのか。

「あ、呼んじゃう?呼んじゃえ!」

 ユウは唐突にスマホを取り出して、操作し始める。呼ぶったって、どうやって。

「え、いーよ!いらね!」
「もう掛けちゃったよん。」

 いたずらっ子の顔をしたユウはべーと舌を出し、スマホを耳に当てている。呼び出し音が微かに聞こえてきた。

「つうか何で番号知って……、」
「ハイ!」

 ユウは言葉を遮り、スマホを無理矢理耳に押し当てた。質問に答える気はないらしい。

『もしもし?』
「あ、もしもし俺……、仁だけど。」

 久しぶりに電話越しの声を聞いた。ちょっと耳がくすぐったい気もする。

『え……?』
「ごめん!ユウが勝手に掛けた!」

 戸惑った声だ。そりゃそうだろう。ユウの番号なのに違う奴が電話口に出てるんだから。

「あの、さ。今出てこれるなら店においで?久々に会いたい。」

 会いたい。言ってから少し気恥ずかしくなった。散々遊んで言い慣れたはずの言葉なのに。

『んと、少し遅くなるけど……。』
「いい。待ってる。ユウと。」
『……分かった。』

 じゃあ後で、と言って電話を切る。まだ耳がこそばゆい。

「来るってー。」

 ポイ、とスマホを放ってやった。ユウはそれをちゃんとキャッチしてにやにやしている。

「良かったわねー。チャンスチャンス!」
「なんの?」
「俺のモノになれタクト?」
「ないないない。」

 首も手も横に振った。んなこと言うか。

「なによぅ意気地無しィ。」

 ぷー、とふくれっ面のユウ。誰が意気地無しだよ。ちょっと慎重になってみようってだけ。子供相手なんだからさ。
 言い訳じみてる、と自分でも少し思った。情けない。




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