小説 藤枝さんと吉川くん | ナノ




Chapter.9
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 ベッドに寝転び、部屋の白い天井を見つめていた。浮かぶのは黒髪の美少年。

 『本気でハマっちゃった?』

 ユウの言った言葉が繰り返し再生される。どこにそんな要素があるのか。思い返してみる。
 そりゃあ、いつもみたいな声を掛ければホイホイとヤらせてくれるような奴とは違って、下心なんか微塵も感じなかったし。純粋に俺との会話を楽しんでくれてる感じが嬉しかったし。あんなとこ来てるのに酒飲まないとか、妙に真面目なところあるし。ちょっと大人びてるくせに、笑った顔が意外と幼くて可愛いし。肌はきめ細かくて白くて、スッと伸びる細い指は綺麗。

 あれ。

 やっぱ惚れちゃってんの?ヤバイそうかも。
 ゴロンとうつ伏せになり、枕を抱きしめた。ボスッと顔を埋めて足をジタバタさせる。
 これじゃイカン。どツボにハマってしまう。そうだこんな時は誰かとヤって忘れてしまおう。急に連絡したって、会ってくれるような奴はいっぱいいる。
 携帯を握り、カチカチとアドレス帳をスクロールしていく。あ、こいつがいいや。適当な名前を選び、電話。コール音6つで応答あり。

「もしもし?俺。仁だけどー。今から会える?……やった。じゃ××駅の南改札で待ち合わせでー。」

 よし。忘れよう。本気にならなくても楽しければいいのだ。
 脳裏にチラつくタクトの横顔を振り払い、支度に取り掛かった。



◇ ◇ ◇



 待ち合わせて、軽く酒が入って、即ホテル。セフレだからいつもこんなもん。

「シャワー浴びてくる。」

 そう言った相手の腕を掴んで、引き留めた。そんなのいらないから、早く忘れさせて。俺は憂さ晴らしがしたいのさ。

「仁?」
「いいから。」

 少し戸惑ったその唇に、強引に口づけ。何度かついばみ、舌を滑り込ませる。

「ん……っ。」

 相手の鼻から漏れる吐息。舌を絡め取り、くちゅくちゅと水音をたてた。互いに慣れた深いキスで、口腔内を溶かし合う。

 アイツもこんなヤラシイ顔するのかな。

 一瞬よぎったそんな考えをすぐ捨てる。忘れたいんだってば。舌先を甘噛みして離れると、クスクス笑って腰に腕を回された。

「仁、今日はがっつくね。」
「そういう気分なのー。」

 そう言ってベッドに押し倒す。またキスの続き。手早く服を脱がせて、自分の服も脱ぎ捨てた。
 キスと愛撫、それだけでその気になれる。好きって気持ちなんかなくたって、嫌いじゃなければセックスなんて簡単にできてしまう。身体って単純。

 そのくせ、思考回路は思うように切り替えてくれない。
 キスをしていても、相手が喘いでみせても、自分と相手が繋がっていても、脳裏をかすめるのはタクトばかりで。

 タクトならどんなキス?タクトならどんな声?タクトならどんな感覚?

「あ……っ、あん…っ!じ、ん…っ!」

 組み敷いた相手とタクトを重ねてみる。馬鹿だな、あまり考えたくなくて、別の男抱こうって思ってたのに。

「も、イク…っ、あっ…!」
「ん……俺も…。」

 やっぱり、一度狙った獲物は逃さず落としておかないと気が済まないだけかな。本気かどうかなんて、そんなの決まってる。本気じゃない、遊びです。俺はそういう奴だから、それでいい。どうせいつもの好奇心で、気になってるだけだ。

「あっ、あん……っや……ん、あぁッ!」
「………っ!」

 相手の絶頂とほぼ同時に、白濁を思い切りぶちまけた。もう一回くらい、しとこうか。なんて考える。

 本気の恋愛なんて疲れるだけだからもう要らないんだと、快感に蕩けた脳みそに刻みつけた。








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