聞こえてる? | ナノ




後日談:会えなくて寂しいA
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日付けが変わる前になんとか帰宅して、靴を脱ぎながら伸太郎に電話をかけた。待ってましたと言わんばかりの速さで、電話は繋がった。

『もしもし』
「ただいま」
『おかえりなさい、今日も遅かったですね』

スピーカー通話にしてスマホをテーブルへ置き、エアコンをつけてネクタイを緩めた。締め直すのが面倒で、もう三日くらい同じネクタイだ。

「寝てたか?」
『起きてました。晶午さんから電話くると思って』
「無理して待ってなくてもいいぞ」
『晶午さんは俺の声、聞きたくないですか?』
「お前に無理させてまで聞きたいとは思わねえなぁ」

聞けたら嬉しいけどよ。でも電話のためだけに起こしておくのは可哀想だと思う。

『……次、いつ会えますか?』
「あ〜、約束はできねぇな。今日またちょっとミスが見つかったから修正と、他にもやること残ってるし」
『そうですか……。いえ、すみません。急かしてるわけじゃ、ないです』
「ま、急かされても仕事が早く終わるわけじゃないしな」

一瞬がっかりした声を出したようだったが、すぐにいつも通りに戻ったから、気にしないことにした。靴下を足で脱ぎながら、ベルトごとスラックスを下げて床に放る。シワさえつかなきゃ吊るさなくてもいい。

『でも、今月我慢したら終わりますもんね』
「最強に忙しいのは月末の締め日だから、四月の頭もちょっとバタバタするだろうな」
『あ……そうですよね……すみません』

今度は気のせいではないらしい。あからさまにシュンとして、伸太郎は無言になってしまった。こんなことで拗ねられても困るんだが。消臭スプレーをスーツに吹きかけながら、思わず溜め息がこぼれた。

「仕事なんだから、仕方ないだろ?」
『何も言ってませんけど』
「ハーガッカリーって言いたげな雰囲気だったじゃねえか」
『会えなくてがっかりするのが、そんなに悪いことですか?』
「悪いとは言ってねぇだろ。がっかりされたって、仕事してたらお前のワガママ全部は聞いてやれないんだよ」
『ワガママ?俺がいつワガママ言いました?教えてくださいよ。会いたいとも、電話したいとも言ってないですよ。仕事で疲れてるのわかりますけど、八つ当たりしないでください!』
「はぁ?!八つ当たりなんかしてねぇだろ!疲れてんのわかるなら、いちいち拗ねるなよ!元彼と三年会わなくても恋人気分でいられたんだから、ひと月くらいどうってことねーだろ!」

しまった、言い過ぎた。だが、口から出たものは引っ込まない。
俺が謝るより先に、ディスプレイから伸太郎の冷えた声が響いた。

『わかりました。もう三年くらい電話してこないでください』

ぷつり、と通話が切れた。



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