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後日談:会えなくて寂しい@
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三月、またの名を年度末。当社が決算を迎えるにあたって、俺らは忙殺される。

「中塚、勘定入力あとどれくらいで終わりそうだ?」
「今日中に終わらせます」

この時期は特に、総務課会計係は血眼になってパソコンと格闘する。経費関係の領収書やら、受注工事の仕掛りやら、ひとつの入力ミスが決算を狂わせる。それを税務署に指摘された日には、修正申告だの追徴課税だのと面倒が倍になる。速く正しく確実に、と脳内で唱えながらバタバタとキーボードを叩いていた。

「無理はしなくていいぞ……と言いたいところだが、今日中に終わってくれると助かる」

課長が申し訳なさそうに肩を叩いて、デスクに缶コーヒーを置いていった。俺はこういう気遣いができる上司を尊敬している。酒が入ると息子自慢が止まらない親バカな一面もあるが。

「いただきます」と一声かけて、コーヒーを開けた。適度な休憩も、集中力の持続には必要不可欠だろう。ついでにスマホを手に取り「残業で遅くなるから会えない」と、伸太郎へメッセージを送った。

<お疲れさまです。残業がんばってください>

返事はすぐに来た。もうかれこれ二週間は同じようなやりとりをしている。深夜に帰宅して、少し電話をするだけの日々が続き、さすがに寂しそうな素振りを見せるかと思いきや、伸太郎は普段と変わらずケロッとしていた。物わかりの良いやつは助かる。
今は土曜日も半日出勤しているから、週休二日に戻ったら伸太郎の行きたい所へ連れて行ってやりたい。ワガママも大目に見て、甘やかそう。

気合いを入れ直して、再びパソコンと書類に向き合った。


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