言うことを聞け
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ぐったりと倒れ込んだ窪田が、目を覚ますまで意外と時間はかからなかった。
「な、中塚さんっ」
声がしたもんで振り返ってみたら、顔色が悪い窪田は目をくりくりさせていた。
「あ?どうした?吐くか?」
「いや、大丈夫です……。あれ?おれんち?」
どうやらなんでここにいるのか理解できてないようだ。横向きに寝ていた体を起こしながら、部屋を見て不思議そうにしている。
「覚えてねぇのかよ。酔って川入って暴れて吐いたじゃねーか」
「そこまではなんとなく記憶してるんですけど……」
「んで、立てなくなったから引きずってお前んちまで来たんだよ。どこに何があるか分かんねぇから、とりあえず濡れたズボンは脱がしたけど」
風邪ひいちゃ困ると思って、ベッドに上げて脱がせて即布団を掛けた。そこで襲うほど俺の理性はヤワじゃない。
「あとは自分で着替えろよ。タオルもどこか分かんねぇから、床びたびただけど勘弁な。じゃ」
「えっ?どこ行くんですか?」
「バーカ。帰るんだよ。明日は平日だっつの」
間抜けな質問しやがって。俺だって一応サラリーマンなんだよ。
「でも、中塚さんだって濡れてるじゃないですか。外歩いたら風邪ひいちゃいますよ」
「適当にタクシー拾って帰る」
「この辺タクシー通りかからないですよ」
「んじゃあ走って帰る。走って来たんだしな」
「そんなぁ」
窪田は情けない顔で俺を見上げた。確かに、ぐっしょり濡れた膝下がずっと冷たかった。かといって乾くまで待ってたら夜が明けそうだ。
「じゃあそのスウェット洗って返すんで、俺のやつ履いてください」
「いーって。んな気にすんなよ。それよりお前もさっさと風呂入ってあったまれ。湯船で寝るんじゃねーぞ」
「……帰らないでくださいよぉ」
この後に及んで何を抜かすか、バカ窪田。そんな寂しそうにしやがって。誰がうっかりほだされてなんかやるかよってんだ、人の告白スルーしたやつに。
「帰るつったら帰るんだよ。明日ちゃんと話し聞いてやっから。な?また同じ時間に待ち合わせ、できるか?」
「できます……。あの、せめてタクシー代、出させてください」
往生際の悪い窪田は、鞄から財布を取り出した。これも拒否するとまた長引きそうな予感もして、仕方なく3枚の千円札を受け取った。1枚多いんだよ、生意気なやつめ。
「んじゃーな。また明日。あと下、パンイチのままうろうろすんじゃねー」
「あっ、すみません!あの、おやすみなさい。ほんと、すみませんでした」
タクシーは結局拾えなくて、さみー!と仕切りにぼやきながら小走りで帰った。
明日あいつはどんな顔して何を話すんだろう。俺は、どんな顔してその話を聞けばいいんだろう。
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