5-A.友達欲しいべさ。
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笑顔のまま硬直する睦朗と、それを笑顔で見返す和泉。ほんの一瞬の凍った空気は、睦朗の悲鳴によってすぐに砕かれた。
「えぇぇぇ!?なんっなんで?」
「え?なにが?」
「方言!なんで分かったの?」
「えーと、なんでって言われても……。」
無意識に方言を使っていたので、睦朗は自分で話していたことに気が付いていない。しかし聞いている和泉にしてみれば、聞きなれない単語と微妙に違うイントネーションは違和感しかないわけで、それが方言以外の何になるのか説明しようがなかった。
「俺、なんか変なこと言った……?」
「いや、特には。」
「もっもしかして山本くんはエスパー!?」
「ごく平凡な人間だと思うけど。」
「えっえっじゃあなんでっ。」
「うーんと、しょ、しょしい?って聞いたことなくて。」
「はっっ!」
睦朗は記憶を辿ってみる。恥ずかしいこと、とは。腹の虫が鳴った時、もしかしたらうっかり口走っていたかもしれない。あまりの恥ずかしさについ方言でそう言っていたとしたら……。
「もしかして、訛ってた?」
「うん。たぶん。」
「しょしい、って通じないんだ。」
「うん。通じない。」
がくーっ、と膝を地面につきたくなるような気分だった。いっそめり込みたいとまで思う睦朗の、あまりにも落胆している様子に、和泉は僅かに罪悪感を覚えずにはいられない。
「あー、えーっと、訛ってるのは隠したかった、とか。」
「……うん。」
沈みきった睦朗の返事を聞き、触れずにいれば良かったかと後悔してももう遅い。それに、いずれ誰かが気が付いただろう。とりあえず目の前の落ち込んだ同級生をなんとかしなければ、と和泉は睦朗に約束をすることにした。
「別に言いふらしたりしないから。他の人には黙っておくね。」
「ありがとう!山本くんやっぱりいい人だね!」
一瞬で復活した睦朗に、とりあえず和泉はホッと胸を撫で下ろした。これくらいのことでいい人だなんて、睦朗の人が良すぎるのでは?と思わずにはいられない。
「じゃあまた、学校で。」
「うん!今日は来てくれてどうもありがとう。明日は学校行くから!」
ばいばい、と手を振りあって睦朗は和泉を見送った。ようやくできた友達と明日は何を話そうか、などと考えていると、自然と頬が緩んでしまうのであった。
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