南部弁男子の飼い方 | ナノ




4-B.本当に桜が咲いでら。

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 ホームルームが終われば、今日はもう下校となる。ガヤガヤとクラスメイトたちが帰る支度をし始めた中、睦朗は竜介の席まで向かった。既に鞄を持って帰る気満々だった竜介を見て慌てて駆け寄り、思い切って声を掛ける。

「あのっ、朝は、どうもありがとうございました!」
「え?あさ?」

 朝、朝、とブツブツ繰り返しながら竜介は記憶を掘り起こしてみる。目の前のクラスメイトを見ても、何も思い出すことはない。遅刻回避のためにひたすら走ったことは確かだ、としか言えない。

「なんかあったっけ、朝。」

 すっかり忘れられていることに、睦朗はがっくりと肩を落とした。しかし、竜介がピンチを救ってくれたことに変わりはない。

「迷ってたら声をかけてくれたから、助かりました。ありがとう。」
「あー。なんか、あったかも。あったっけ?まぁいっか!どういたしまして!」

 そういえばそんなことあったかもしれない、という程度にしか竜介の記憶にはないし、さっきの自己紹介で思いっきり笑われてた奴なのに名前も思い出せないが、お礼を言われて悪い気はしない竜介はとりあえず素直にその厚意を受け取ることにした。睦朗もお礼を言えたことには満足したらしく、それきり二人に会話の続きはなかった。

「いっちゃーん、かーえーろー!」
「もう話はいいの?」

 少し離れたところで竜介を待っていた和泉は、隣に来た竜介と置き去りにされた睦朗を見比べた。こちらを見て、まだ何か言いたそうにしている睦朗が気になったからだ。

「あれ、もういいんだっけ?」
「あ、はいっ、引き留めてすんませんでしたっ!」

 竜介が振り返って確認すると、睦朗は慌てて頭を下げる。あわよくば友達に、などと考えていたことは口に出さずに。

「いいんだって。」
「ふぅん。」

 竜介はあっさりと和泉の方へ向き直り、教室から出ようと歩き始めた。そういう竜介に慣れている和泉も、合わせて歩く。その背中をぼーっと見つめていることしかできなかった睦朗は、どんどん生徒がいなくなっていく教室を見渡して、早く帰らなくては……と鞄を掴んだ。

 帰り道は、迷わなかった。ただ、家に着いた瞬間、どっと疲れた。

 緊張が解けて、全身の力が抜ける。思わず溜め息が漏れた。
 制服を脱いで部屋着に着替えると、ようやくリラックスできた睦郎はとりあえず居間にごろんと転がった。暖房のスイッチを入れなくても寒くないからやっぱり東京だなぁ、と感じながら一日を振り返ってみる。

 東京の人は優しかった。でも、友達ってどうやって作るんだっけ。

 思いもよらぬ壁に、睦朗は戸惑っている。訛りさえ気をつければ普通に会話できるはずで、会話できれば自然と友達になれると思っていたが、どうやら想像以上にハードルは高そうだった。しかしまだ入学初日。これからきっと仲良くなっていけるさ、と睦朗は思うことにした。

「うん。大丈夫だべ。」

 声に出してみると案外なんとかなりそうな気になってくるから不思議なものである。
 気を取りなおした睦朗は、スマホを掴んで簡単な報告メールを両親に送った。


『ちゃんと入学式終えました。こっちは桜が咲いでらったよ。人っこ多くて名前おべらんねーけど、頑張ります。タカとテルとさぶにもよろしく。』


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