南部弁男子の飼い方 | ナノ




9-B.友達っていろいろ

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睦朗は帰りのバス停で、一際目立つ長身を見つけた。駆け寄って、ポンと背中を叩くと、イヤホンを外しながら振り向いたのは善治だ。

「善ちゃん、今帰り?珍しいね」
「図書室で寝てた」
「あはは!」

善治は授業中も時々居眠りしているらしい。後ろの席なので睦朗からは見えないが、たまに先生から注意されている。
それで放課後も寝るのだから、逆に夜眠れないのではないかと睦朗は思う。それで朝寝坊して遅刻が多いのかもしれない。

「善ちゃんそんなに寝て、夜寝られる?」
「寝る」
「ええ〜。もしかして寝る子は育つってこういう事なのかなぁ。俺も寝たら背伸びるかな?」

クラスでも突出して背が高い善治は、よくモテる。既に何人かに告白され、全て断っているらしい。顔も身長も並の睦朗には、羨ましい限りだ。

「別にチビじゃないだろムツだって」
「でもやっぱ背が高い方がモテるよ。顔はもう変えようがないから、せめて身長だけでも……」

そんなにモテることにこだわる理由が、善治にはよく分からなかった。その気がない相手をお断りするのは疲れる。よく知りもしない女子から、何度も告白されては断ってきた。泣かれることもあった。別に好きじゃないんだから仕方ないのに、自分が悪者みたいで後味が悪い。

「モテてどうすんの?」
「やっぱ彼女作りたいよ〜。青春したい。善ちゃんは彼女、いないの?」
「いない」
「どういう子がタイプ?」
「…………別にない」
「ほぇ、そうなんだ。好きになった子がタイプです!って感じ?」
「ムツは?」
「俺はね、優しくて、一緒にいて楽しい子がいいな」

楽しげな睦朗が、善治は少し羨ましかった。そんな風に、恋愛に夢を見ることができない。自分が好きになる相手は、世間一般的には受け入れられない。
善治はゲイだ。自覚したのは中学二年のとき。ジャージに着替える同級生の半裸に、性的興奮を覚えた。友達に対する後ろめたさを隠しながら、少しずつ孤立していった。

「中学は気になってる子がいたけど、見てるだけで終わっちゃったから……善ちゃん?どうしたの?」
「なんでもない」
「なんか、顔色悪いよ。どっか具合悪い?」
「なんでもない」
「そう?もし立ってるの辛くなったら、俺に掴まっていいからね!」

結構力持ちなんだよ、と睦朗は胸を張った。実家の農作業を手伝っていたこともあり、腕力には自信がある。
善治はそんな睦朗に、興味本位で寄りかかった。自信ありげな顔を困らせてやろうと思って、肩を肘掛けの代わりに体重を乗せる。意外と平気なようで、睦朗はそのまま善治の肘掛けにされても笑っていた。

「確かにこれは楽」
「あはっ、掴まるっていうか乗っかってる」
「いいもんみっけ。これで立つのもサボれる」
「とことん楽したがる善ちゃんらしいね」

結局バスが来るまでそのままでいた。
なんだか甘えられてるみたいで、睦朗はほんの少しだけ兄気分を味わったのだった。


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